風邪をひく、頭痛、筋肉痛、二日酔い……日常生活では何かと薬のお世話になる機会も多いもの。薬はドラッグストアやコンビニでも簡単に手に入る時代。だからこそ、使い方を間違えると大変! この連載では大手製薬会社で様々な医薬品開発、育薬などに従事してきた薬学博士の長谷昌知さんにわかりやすく、素朴な疑問を解決してもらいます。
※この記事は2019年に投稿されたものを、再編集してお届けするものとなります。
Q.薬を飲むときは、お茶や牛乳、ジュースなど、水以外の飲み物で飲んではいけないのでしょうか?
大前提として薬を飲む時は、水で飲むのが一番安全です。お茶や牛乳、ジュースやコーヒーなどは日常生活で普通に口にしている飲み物ですが、薬と一緒に飲むとなると、注意しなければいけないことがあります。
まず、毎日飲んでいるという人も多い牛乳でも、薬を服用するときには注意が必要です。たとえば、熱が出たときに使う抗生物質や抗菌剤には、牛乳と一緒になると吸収されにくくなってしまうものがあります。牛乳に含まれるカルシウムが、薬の成分と結びついて小腸を通過できなくなってしまうからです。連載第14回で、「薬をいつ、どこで溶けるようにするか」という話に触れましたが、牛乳は腸で溶けるようにつくられた薬の吸収に影響します。
腸で溶ける薬は胃酸では影響を受けずに腸で溶けるようにコーティングされています。このような薬は、胃のように強い酸性環境(PH=1~2)ではほとんどコーティングは溶けませんが、中性に近い腸ではコーティングが溶け有効成分が溶け出すように設計されています。牛乳のPHは6.4~6.8と中性に近いため、牛乳で飲んでしまうと、腸で溶けてほしいにもかかわらず胃で溶けだしてしまう恐れがあります。こうした薬を服用する際は、牛乳で飲まないのは当然として、時間をずらして飲むことも大事です。
続いて、お茶やコーヒーの場合です。お茶は鉄剤の吸収が悪くなると言われています。これはお茶に含まれるタンニンが鉄と結合して吸収が悪くなってしまうというのが理由です。しかし、家庭で飲まれている緑茶程度であれば、基本的には問題ないというのが最近の見解です。コーヒーはカフェインに注意が必要です。カフェインによって胃酸の分泌が促進されたり、胃腸障害の増加が起こったりする可能性があります。風邪薬などのカフェインを含む薬との成分重複による、副作用にも注意しなければいけません。また、睡眠導入剤や安定剤を飲む場合、カフェインは逆の効果を持っているので、作用減弱が考えられます。
薬をジュースで飲むという人はあまりいないかと思いますが、ジュースの中でもとくに気をつけなければいけないのは、グレープフルーツジュースです。薬を代謝する酵素にチトクロームP450というものがあります。グレープフルーツに含まれる成分に、これを阻害するものが含まれているのです。その結果、薬が代謝されず、効果が増強されたり、毒性が増強されたりする可能性が出てくると言われています。
もともと薬は水で服用するようにつくられているものです。水以外の飲み物で服用した場合には、書き記してきたようにいろいろな問題が起こることが予想されます。効果が弱まったり、副作用が起きてしまったりしては薬を飲む意味がないので、水で服用することを心がけましょう。
長谷昌知(はせ・まさかず)
1970年8月13日、山口県出身。九州大学にて薬剤師免許を取得し、大腸菌を題材とした分子生物学的研究により博士号を取得。現在まで6社の国内外のバイオベンチャーや大手製薬企業にて種々の疾患に対する医薬品開発・育薬などに従事。2018年3月よりGセラノティックス社の代表取締役社長として新たな抗がん剤の開発に注力している。
Gセラノスティックス株式会社