佐久間編集長のパーソナルトレーナー百人斬られ(仮)Vol.7 井上浩(ゴールドジム大阪梅田)前編




VITUP!編集長・佐久間が全国のパーソナルトレーナーさんを巡っていく「パーソナルトレーナー百人斬られ(仮)」。前回に続き、舞台は大阪。ゴールドジム大阪梅田店でアドバンストレーナーを務める井上浩さんの登場です。11年連続ミスター日本ファイナリスト、日本クラス別選手権優勝18回という記録を持つ“西のレジェンド”の歩みに迫ります。

『北斗の拳』の主人公・ケンシロウさながらの肉体を持つ井上浩さんがトレーニングを始めた原点は、まさしくケンシロウでした。1962年生まれの井上さんの世代は、「ノストラダムスの大予言」から、世紀末への不安を少なからず抱くことがあったと言います。

 

「今となっては笑い話なんですけど、小学生のときに『ノストラダムスの大予言』を知って、やはり怖かったんです。世紀末には『北斗の拳』のような核戦争後の世界があって、さまざまなサバイバル能力がないと生きられないという思いがありまして、そのときに守るべき人を守れる能力を欲しいと思っていました」

 

強靭な肉体、強さを手に入れたいと考えた井上さんは、公園で懸垂をやりまくり、家では腕立て伏せを何百回と繰り返し、エキスパンダーやダンベルも駆使しながら鍛えていき、自宅トレーニーでありながら、ムキムキの肉体になっていきました。

 

自宅トレーニングを続けながら広告代理店でデザイナーとして働いていたある日、取引先の業者さんとの会話が一つの転機となります。

 

「スポーツクラブに通っている業者さんに『井上さんはすごいですけど、スポーツクラブに行ったらもっとすごくなれますよ』と言われたんです。僕の中では『スポーツクラブの奴らに負けるわけがない』と思っていたのですが、優待券をもらったので試しに行ってみました。そうしたら器具がたくさん並んでいて、『こんなところで鍛えられたらたちまち抜かれてしまう』と思って、すぐに入会しました(笑)」

 

18歳から7年間、自重で鍛えてきて、25歳にして初めてジムに入会。器具を使ってトレーニングをすることで、肉体は飛躍的に発達していきます。ジム仲間ができて一緒にトレーニングをするようになり、29歳でコンテストに初出場。尼崎選手権で準優勝したものの、嬉しさよりも悔しさが勝り、ここからトレーニングはより本格化。その後の活躍は言うまでもなく、2002年ジャパンオープンボディビル選手権優勝、1999年から17年連続日本クラス別ボディビル選手権90kg級優勝を飾るなど、第一人者と呼ばれる存在になっていきました。

 

デザイナーをしながらトレーニングをしていた井上さんが、トレーナーの道へと進むきっかけは、会社の状況の変化が大きかったと言います。会社の規模が大きくなるに伴い、プロダクションへの外注が増加。自身は打ち合わせのみで、作業は外部のデザイナーに依頼することで、時間が空いてその分をトレーニングの時間に割けるようになります。その結果、ミスター日本のファイナリストの常連となり、トップビルダーへと上り詰めていったのです。

 

自身の肉体が進化する一方で、会社の業績が悪化。デザイン部が廃止となり、営業部へ回ることになります。畑違いの仕事をするならばトレーニングを仕事に生かしたいと考えて、通っていたゴールドジムに相談。トップビルダーだったこともあって、「ぜひ来てください」と快諾してもらい、トレーナーを務めることになりました。

井上さんのトレーニングといえば、自らのイニシャルをとった「IH式トレーニング」。これはトレーニング方法というよりは、トレーニングに関する思考と言ったほうが正しいでしょう。

 

「人が限界を感じるのには、体の限界と心の限界があります。何らかの要因でセーブがかかるため、心の限界を上げるのは難しいものです。潜在能力の範囲内で、日常生活では発動しないような領域が発動するのが、“火事場のクソ力”と呼ばれているものだと思います。

では、それはいつ発動するのか。たとえば300㎏の岩があるとします。衝立を立てて人が一人入れるスペースをつくっておいて、持ち上げることにトライしてもらいます。持ち上げようとする力なので、これはポジティブワークになります。トライしたけど持ち上がらなかったというとき、果たしてその人は100%の努力をしたのか? 諦めるほうが早かったのではないかという話です。

これに対して、立っている人の上にクレーンで吊り上げた300㎏の岩を乗せたとします。そして『今からワイヤーを切るので死ぬ気で耐えてください』とオーダーをかけます。ワイヤーが切れた瞬間から300㎏の重さがのしかかってくるので、その人は必死に耐えます。これは耐える力なのでネガティブワークです。潰れたら死んでしまうので、持ち上げようとしたときよりも、100%の努力をするはずです。セーフティーがなければ死んでしまうかもしれないという状況下では、心理的限界値が高くなります。これが“火事場のクソ力”が発動する状況です」

 

これと同じ考え方を用いたのがIH式トレーニングになります。自分の力で上げてネガティブワークをするのではなく、誰かの力を借りないと上げられない重量を運んでもらって耐える。こうすることでネガティブオーバーロードがかかるというわけです。このIH式トレーニングに関しては、後編でさらに詳しく、実践を交えてお届けしていきます。

 

とにかくストイックにトレーニングに打ち込んできた井上さんのトレーナーとしてのモットーは「卒業させてあげること」だと言います。

 

「目的を持って運動されるお客様がそれを達成できるようにお手伝いするのが、トレーナーの仕事だと思います。だから方法論をマスターするまでは横で並走してあげていいのですが、いつまでも一緒ではいけないと思っています。人に見てもらわないとトレーニングができないと信じ込ませるのは、悪い医者と同じではないかと感じています。部分的な治療をして、また病気になったら来てね…ではなく、完全に治してあげて、もう二度と来ないようにしてあげるべきなんです。方法論を伝授しきって、マストトレーニングをマスターできたら、卒業させてあげるという形で僕はやっています」

 

トレーナーとして利益のみを考えれば、顧客は多いほうが良いのは事実。しかし、井上さんは自分のもとに顧客を抱えるのではなく、お客様が一人でトレーニングできるよう、卒業できるように指導することを大事にしているのです。こうした背景もあり、現在では井上さんを「師匠」と呼ぶトレーニーが増えていっています。

 

どこまでも自分を追い込む強さと、お客様への優しさを兼ね備えた人物。世紀末を生き抜く強さを求めてトレーニングを始めた井上さんは、いつしか自身がケンシロウのような存在になっていたのです。

 

というわけで、次回は実際のIH式トレーニングの模様を紹介します。

 

【トレーナーPROFILE】
井上浩(いのうえ・ひろし)
1962年11月13日生まれ。18歳からトレーニングを始め、ボディビルで数々の実績を残す。自身のトレーニングに対する考察をもとにした、IH式トレーニングを指導しており、ボディメイクやデザイン以外にも、スポーツの競技力向上の為の指導も行なっている。
主な戦績は以下の通り。
2000年ミスターアジア3位/2001年ワールドゲームズヘビー級6位/2002年ジャパンオープン優勝/2002年釜山アジア大会4位/2007年東アジア選手権2位/11年連続ミスター日本ファイナリスト/17年連続日本クラス別選手権優勝

 

【店舗情報】
ゴールドジム 大阪梅田
〔住所〕大阪府大阪市北区茶屋町15-31 茶屋町クリスタル3・4F
〔料金〕(価格は税込)
■レギュラーメンバー(梅田大阪店のみ)
ミッドナイト(月~土、日以外の祝日 23:00~7:00)6,600円
シェイプエクスプレス(全営業時間 週2回利用〈日~土曜日〉)6,600円
※女性限定
スチューデント(全営業時間利用可能〈高校生は22時まで〉)8,800円
※高校生~25歳までの学生に限る
ホリデイ(土・日・祝日の全営業時間)7,700円
デイタイム(月~土・祝日 7:00~18:00)8,800円
ファミリー1人9,900円
※同居している2親等以内のご家族が対象。
※ご入会時のご家族が全員在籍して頂いていることが条件です。
※全営業時間利用可能
フルタイム(全営業時間)11,000円
ゴールド(全営業時間・レンタル5点セット付〈※1日1回〉)16,500円
■井上さんのパーソナルトレーニング
60分/8,800円(都度払い)
〔営業時間〕
24時間営業
※毎週日曜日20:00〜月曜日7:00の間クローズ
※定期休館日(第3月曜日)当日は23:00オープン
※休館日は第3月曜
※休館日は会員種別により十三店、宝塚兵庫店を無料でご利用いただけます

 

佐久間一彦(さくま・かずひこ)
1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、高校日本代表選出、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアン、パラリンピアンの取材を手がける。