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踊って飛んで、1時間ほぼ休みナシ。「華奢でかわいい」は通用しない、チアリーダーの強さはどう磨く?【NFLチアリーダー・猿田彩#3】




まぶしい笑顔とエナジー満点のパフォーマンスで観客を魅了する、NFLチアリーダー・猿田彩さん。ここでは夢を追い続けた猿田さんの人生や、パワフルなパフォーマンスの原動力に迫る。第3回は、本場のチアに近づくために工夫したという、トレーニングや食事について聞いた。

さらに力強く。クロスフィット&食事改善で急成長

「『華奢でかわいい』ではダメなんです。パワフルに踊れる強さが必要でした」

アメリカトップレベルに挑むためには、さらなる成長が至上命題。猿田さんは考えた末、トレーニング方法の改革に着手した。目指すのは、動けて強い体づくり。アメリカのチアリーダーの理想形だ。

そこで彼女が選択した方法が「クロスフィット」だった。クロスフィットとは、走る、持ち上げる、飛ぶなどのさまざまな動作をベースにした、高強度のプログラムを短時間で行なうトレーニング。猿田さんはこれを活用し、力強いパフォーマンスを磨こうと考えたのだ。

「チアでのパフォーマンスの一曲は短いのですが、ダウンやアップなどさまざまな動きが入ってきます。キレを出すために、クロスフィットが私にとってはハマりましたね。1時間の中にジャンプなど多彩な動きが取り入れられているので、きつい中でアクションが入ってくるチアに似ていると思いました」

笑顔で踊れる強さは、弛まぬ鍛錬によってつくられた

クロスフィットに励みつつ、以前から行なっていた全身の筋トレを継続。持久力と動きの幅を向上させ、アメリカ人にも引けを取らないパフォーマンスを手に入れた。加えて、猿田さんを強くしたのはトレーニングのみならず、食事面での工夫も大きかったのだという。

脱・粉末プロテイン。食事の半分は野菜と果物に変更

「知識がなかったので、日本ではやたらとプロテインを摂っていました」と話す猿田さん。その考えはアメリカでの経験によって一変した。

「チームメイトの食事を見ると、野菜と果物の割合が多いことに気づきました。『自然な食事を摂ることが大切なのでは?』と思って、粉末プロテインをやめてクリーンな食事からタンパク質を摂るようにしたんです。あとはチームメイトを真似して、食事の半分は野菜と果物を食べようと心掛けていきました」

猿田さんの食事の一例。明らかに野菜と果物の比率が大きい

食生活を整えた猿田さんの身に変化が訪れる。栄養素の偏りが減少したことで、以前にも増して心身が元気になった。もちろん野菜と果物だけではガス欠に陥るので、運動の1時間前には炭水化物を摂取するなど工夫していたという。

「いろいろな食材を偏りなく食べることで体が元気になりますし、心もハッピーになります。心が豊かになるとパフォーマンスも明るくなって、エナジーの放出量みたいなものも上がると感じているので、この食習慣は続けていきたいと思っています」

食が体をつくることをあらためて実感。こうして心技体ともに充実した状態をつくった猿田さんは、満を持してNFLのオーディションに挑むのだった。

コロナ禍は残酷に。苦難のNFLオーディション

猿田さんの挑戦に、突如として暗雲が立ち込める。NFLに所属するシンシナティ・ベンガルズのオーディションに臨んだ猿田さんは、持ち前のストイックさと前向きなエナジーで審査を突破。見事に最終審査に駒を進めることになった。しかし、このタイミングで新型コロナウイルスが大流行し、オーディションの延期が言い渡されてしまう。

「悶々としていたと思います。最初は家から出られず、ジムが閉まってトレーニングもできませんでしたから。少し行動できるようになってからは、明るい未来を信じて挑戦を続けていたんですけど、オーディションの重圧もあったのかスランプに陥ってしまって。踊っていても、違和感がある状態が続いていきました」

精神状態が、ダンスにもダイレクトに現れる。ストイックな性格な猿田さんは、不調を感じる中でも毎日トレーニングを欠かさなかった。しかし中々、状況が好転することはなかったのだという。

「踊っていてもエネルギーが出ている気がしなくて、これでは応援できないなと思いました。踊るのが好きなはずなのに、いつしか苦痛になってしまっている。このままではまずいと思って、休む勇気を持とうと決めました」

(第4回に続く)

取材・文/森本雄大
写真提供/猿田彩