10/2(日)、東京・福生市民会館にて、第56回全日本ボディビル選手権大会が開催され、阪南大学4年生の宇佐美一歩が見事に優勝を果たした。宇佐美は昨年に続く戴冠。連覇で学生最後の締めくくった。
普段はどこか子どもらしさも残す柔らかな笑顔が特徴的で、昨年のステージ上でも笑顔を見せることが多かったが、この日は最初からややイカつめの強気な表情。「意識してつくっていたわけではないですが、気合いが入っていたんです。この大会に懸ける気持ちが強かったので、闘争心を出していこうと思っていた」と話す。
今年は春先の怪我もあり、「本当は夏のジュニア選手権も出るつもりだったけど断念し、学生大会に専念した」とのことで、会場に集まった観客のほとんどにとっては、彼のステージ上の姿を見るのはこの日が初めて。ポーズをとった瞬間にうめき声が会場中から挙がるほど、昨年よりサイズアップしたその姿は圧倒的とも言える存在感であった。
しかしながら、戦前の予想でも「今年は優勝は宇佐美で決まり」という雰囲気もあった中で彼の前に立ちはだかったのは、1週間前の関東学生選手権で突如現れた新星・刈川啓志郎(学習院大学2年)だ。上半身こそ宇佐美に分があるものの、脚に関しては明らかに宇佐美を凌駕しており、結果的に部分賞は胸、背中、モストマスキュラーは宇佐美が、腹、腕、脚、そしてベストポーザーは刈川が獲得。宇佐美も「刈川君を関東学生で初めて見て、『これはやばいなと』。全て揃っているんですよ。絞りも筋量も骨格も、顔も小さくて、ボディビルダーとして完成している」と評している。
逆に刈川は表彰式では涙を流して悔しさを露わにしたが、まだ2年生ながら十分に完成された身体をつくり上げてステージに立ったのは賞賛に値する。「学生大会は面白い」と多くの観客が感じたのは間違いなく、そう思わせてくれたのは、彼がいたからこそ。「来年、ジュニアでリベンジします」「関東での反省をしっかり活かし、全てを出し切れました。来年、圧倒的な体で優勝します」と、早くも次を見据えている。
最終的に優勝を勝ち取った宇佐美は決勝の1分間のフリーポーズでは、「絶対にチャンピオンになるんだという気持ちを込めた」と、Queenの「We Are The Champions」をBGMに柔と剛を兼ね備えたポージングを披露。完成度の高いステージングのように見えたが、「実は、ほぼ全てアドリブでした。フリーポーズを考えるのは、本当に苦手なんです……」と、裏話を語ってくれた。
大学1年時は、現日本王者・相澤隼人や五味原領らと並んで4位、2年次はコロナ禍で学生選手権は中止となったもののマッスルゲート関西大会優勝、3年・4年は学生選手権連覇と、充実した学生ボディビルライフを過ごした宇佐美。今後については、「大会に集中していたので就職はこれから……」と明かしたが、競技は続けていくとのこと。
「来年は、まずはジュニア選手権。そしていずれ、日本のファイナリスト」
“ガクボ”から飛び出し日本の頂点を目指す宇佐美の今後に期待したい。
取材・文・写真/木村雄大