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連覇達成も「悔しい」「申し訳ない」。令和のモンスター相澤隼人が涙ながらに話した理由




「悔しいです。期待してくださった皆さんに申し訳ない。本当はもっと良いステージを見せたくて今日まで頑張ってきたつもりだったのですが……」

涙ながらに絞り出すようにそう言葉を紡ぐのは、10/9(日)に行なわれた第68回男子日本ボディビル選手権大会で連覇を達成し、今年のミスター日本に輝いた相澤隼人である。22歳でボディビル史に大きく名を刻む連覇を達成しながら、彼はなぜそこまで己を卑下するのか――。

「今年は失敗が多く、やり残したことが多い1年でした。体重管理・体調管理をもっとしっかりやるべきであって、減量はしっかりできましたが、それ以前のところでやらなければいけないことが多かった。
実際に今日ステージに立って、合間にSNSなどを見ると、『今日の相澤隼人は良くない』みたいな言葉がありました。見ている方には、やはりわかってしまうんですね。本当に自信もなくて、それが顔にも出ていたと思います。どんどん不安になっていって……」

以前に相澤はインタビューで、「ボディビルは大会の日に相手と戦うわけではない、自分がその日までに準備してきたものを出す場。だから周囲はほとんど気にならない」と話していたが、この日に関しては、「周りが気になってしまいました。なぜなら自分に自信がないから。自信があれば結果は付いてくると確信できるはずなので。でも今日はそれがいっさいありませんでした」とのこと。

相澤をそこまで追い込まれてしまったのは、若くして王者となったプレッシャーなのか、あるいは奢りなのか、はたまた学生から社会人になったことによる生活環境の変化なのか……それは我々にはわからない。

「自分はこの1年の成長がなかった」と彼は話すが、ただ一つ客観的事実としてあるのは、相澤隼人は優勝したということである。「客席から撮った写真や動画は参考程度にしかならない。結局は、審査員からどう見えるかが全てなのだから」と彼は話してくれたことがあるが、この日はどうだ。審査員全員が1位票という文句なしの優勝である。過去最高の自分を見せた木澤大祐、大きなジャンプアップを果たした嶋田慶太、ジュニア王者からファイナリスト入りした杉中一輝らに向けられる観客の声が大きかったのも事実ではあるが、結局は相澤隼人に対する評価を覆すほどのものではなかったのである。

「来年に向けては、オフの過ごし方を徹底します。今年は本当に時間の重要性を学びました。ただトレーニングして、ただ仕事をして、平凡な毎日を過ごしているとあっという間に1年は過ぎてしまう。日々の生活の質を上げていかないと、また同じような感覚で大会に出てしまうかもしれないですから。まだ連覇して2年目でこういう経験ができたのは大きいことだと思います。それにしても、悔しいです……」

バックステージで話を聞いた数分間、彼は「悔しい」「申し訳ない」という言葉を幾度となく繰り返したが、もし本当に相澤の成長がないままでステージに立ち、金メダルをかっさらっていったのであれば、それはボディビルという競技の未来が危ぶまれるものではないか。そのような状態で勝負に勝てるほどこの競技は甘いものではないと、彼はもちろん、同じステージに立った百戦錬磨の選手たちも十分に知っているはずだ。

相澤隼人は、間違いなく成長している。
少なくとも、今日という一日、あるいはこの日に向けた1年でこれまで見たことがなかった自分と出会い、内面的な成長はしているだろう。

1年後、彼は心も体もさらにデカくなってまたステージに帰ってくる。皆がそれを期待し、信じている。

取材・文・写真/木村雄大