隙がないのは当たり前? 王者のすごさは筋肉のみならず【コンテスト審査員が解説】




「かっこいいマッチョとは?」というテーマについて、日本ボディビル・フィットネス連盟(JBBF)の辻本俊子専務理事に競技目線から語っていただく本企画。前回は下半身の重要性について伺い、かっこいいマッチョの全貌が見えてきました。しかし、実際に競技でチャンピオンになるような選手を見てみると、全身のバランスだけではない魅力がある気がしてなりません。そこで今回は、チャンピオンになる選手のすごさについて辻本理事に語っていただきました。

トップレベルの闘いは筋トレ以外でも行なわれている

チャンピオンになる選手というのは、全身の隙がありません。バランスがいいことはもちろん、魅せるべき肩の筋肉や腹筋、背中の筋肉がきれいに仕上がっていたり、姿勢がよくてポーズが正確に取れているのは魅力ですね。表情なども相まって、トータルのかっこよさを演出している部分があると思います。

また隙がないというのは、上記以外の細かい部分も関係しています。チャンピオンになる選手は筋肉の仕上がり以外の部分も手を抜くことはありません。逆にいうと細かい部分を怠ると、ステージに上がった時に「どこか残念だな」という印象を持たれてしまうこともあるのです。

たとえば、選手がステージに出てきて最初に残念だなと思うのは、体の脂肪を落としきれていないことです。トレーニングを定期的かつ継続的に行なえていれば、ある程度の体の脂肪は落ちていくと思いますが、その部分でまず脂肪が落としきれていない。あるいは皮膚がタプタプしている感じが残ったまま出てしまうと、きれいに魅せるための努力をしてきた選手と比べると、評価が下がってしまうというのが実情です。

2022年の男子日本ボディビル選手権大会で連覇を達成した相澤隼人選手。筋肉のみならず、トータルパッケージとして隙がない

あとは皮膚が日焼けでかさかさになっていたり、髪が乱れていたり、すね毛を剃らずにそのまま来てしまうなどもたまに見受けられますが残念だなと思います。こういった努力でカバーできる点こそ徹底しているのが、チャンピオンたる所以なのかもしれないですね。

普段から保湿ケアクリームを塗って肌の状態をよくしたり、髪型についても清潔感を大切にしています。競技審査は頭からつま先までのトータルパッケージですから、王者こそ自身の魅力を引き出す努力を惜しまないのです。どのレベルの大会でも共通ではありますが、とくに「トップレベルの闘いでは筋トレのみならず」ということだと思います。

筋肉の大きさや仕上がり具合はトレーニング歴であったり、その方の筋肉がどのくらい反応がいいかなど、さまざまな環境によるものが大きいと思います。ただ、その環境の中でも「最低限ここまではできるのでは」という基準に達していない方が出てくると、審査として残念に感じてしまうのは否めません。それはポージングの精度についても然りです。

「かっこいいマッチョとは?」というテーマから少し逸脱してしまったかもしれないですが、大切なことなのではないでしょうか。日常のシーンに置き換えると、身だしなみなどの清潔感が鍛えた体の魅力を引き出してくれることにつながると思います。 

◆次回は、マッチョの肉体美の歴史について。


辻本俊子(つじもと・としこ)

JBBF(公益社団法人 日本ボディビル・フィットネス連盟)にて専務理事、競技ルール委員会委員⾧、広報委員会委員長を務める。第1回東京クラス別ボディビル選手権46kg級優勝、第5回東京ボディビル選手権大会ミスの部優勝、社会人ボディビル選手権大会マッスルの部優勝、日本クラス別ボディビル選手権大会52kg級優勝、日本ボディビル選手権大会第10回女子の部優勝、ワールドゲームス(オランダハーグ)52kg級7位などの実績を持つ。

取材・文/森本雄大
写真/木村雄大