もしも超サイヤ人がボディコンテストに出場したら?【ボディビルダー・加藤直之に聞く】




日本が世界に誇るマンガ・アニメ文化。それらの中には、超人的な筋肉を持ったキャラクターたちも存在しています。そんな彼らが、もしボディコンテストに出たらどのような評価を受けるのでしょうか? そんな“あり得ない”疑問に答えてくれたのは、日本トップクラスの現役ビルダーであり、トレーナーでもある加藤直之さん。今回は、世界中で人気を集める『ドラゴンボール』から3キャラクターについて話を聞きました。

世界でも通用する孫悟空の筋肉。しかし髪型が弱点に

――空想上の企画にご協力いただき、本当にありがとうございます。今回は第一弾ということで、ドラゴンボールのキャラクターの筋肉について伺えればと思います。まず、主人公の孫悟空はいかがでしょうか。

加藤 全身のバランスがよくて筋肉も大きいので、まさにボディビル向きですね。大腿四頭筋がものすごく発達していたり、大殿筋も上がっていたり、くまなくトレーニングしないとこんな体にはならないですよ。内側広筋とか外側広筋もすごいですし、カーフなんかも抜群にいい。ボディビルではミスターオリンピアという世界最高峰の闘いがありますが、そこにいっても十分通用する体であると言えますね。

――世界でも活躍できますか!?

加藤 自分はそう思います。ただ、あえて弱点を言うとしたら、あの髪型でしょう。ボディビルでは体を大きく見せるために頭を小さく見せたいので、髪が逆立って頭が大きく見える超サイヤ人の状態では、ちょっと不利かもしれません。それなら、通常状態のほうが勝算がありそうですね。とはいえ、超サイヤ人になった時のほうがパンプアップしているので、頭は通常状態、体は超サイヤ人の状態を作り出せるなら、ミスターオリンピアの頂点に立てる迫力でしょう。

――ちなみに、作中で何度も修行シーンが描かれています。その中でも、亀仙人のところで重い甲羅を背負ってバイトなどに励む姿は印象的でした。こういった重いものを背負って日常生活を送るようなトレーニングは、現実でも効果はあるのですか。

加藤 健康維持としてはいいと思います。今問題になっているフレイルやサルコペニアといった身体機能障害を予防するには、運動の強度を上げたいのです。そういった時に、リュックにペットボトルを1kg分入れた状態でウォーキングなどをすると、両手もあいているので危なくないですし、有酸素運動にもなります。ボディメイク的なマッスルをつくるためにはあまり効率がよくありませんが、あまり強度の高い運動ができない場合は非常に有効です。

亀仙人はデッドリフト世界一を目指せるかも

――孫悟空の師匠の亀仙人はいかがでしょうか。力を入れた時に一気にパンプアップするので、大きさだけでいうと悟空よりも大きいかもしれません。

加藤 パンプアップした時の亀仙人は昔と今とで筋肉の質が違いますね。昔の亀仙人は、柔らかく膨らんだ筋肉という印象でしょうか。イメージとしては、プロレスラーが一番近いと思います。逆に、今の亀仙人は筋肉に固さがありますよね。こういった体型になると、パワーリフターのほうが近いと思います。パワーリフターは重いものを持ち上げることに特化しているので、大胸筋や僧帽筋などが大きいイメージです。

――ボディコンテストではなく、プロレスやパワーリフティング向きということですね。

加藤 そうですね。あの筋肉を見るかぎり、ベンチプレスだと200kgは上げるんじゃないですか。デッドリフトも得意そうです。腕が長いので効率の良いフォームがつくれそうですね。本気で取り組めば、デッドリフトでは世界チャンピオンもいけるんじゃないですか。武術では天下一、パワーでは世界一を目指してほしいです。

――余談ですが、通常時の亀仙人はいかがですか。ぱっと見の印象だと細くて弱そうとも感じてしまいますが……。

加藤 じつは、よく見るとかなり引き締まった体をしています。脂肪が少なく、自分の体を扱うことに長けていると思うので、先ほどはプロレス向きと言いましたが、通常時はまさに格闘家のようなイメージです。老人でありながら、本当に実戦的な体をしています。

ゴテンクスの筋肉は重力室トレーニングの効果?

――続いて孫悟空の次男・孫悟天とベジータの息子・トランクスがフュージョン(合体)したゴテンクスをピックアップしてみました。さすがにコンテストは難しいでしょうか……。子どものキャラクターなので、体が小さいですね。

加藤 そうですね。体が小さい分、頭が大きく見えてしまうので、ボディビルでは不利になるかもしれません。ただ、体がコンパクトなので、亀仙人と同じく格闘技に向いていそうです。実戦的な体をしているので、自重でのトレーニングをしっかり積んでいるのかもしれません。たとえば少し強度が高めの腕立て伏せとか懸垂をある程度やっていくと、実戦的な体をつくることができます。体操競技をやっていらっしゃる方は、こういった体の方が多いと思います。

――なるほど! 言われてみれば、そうですね。作中で印象的だった重力室でのトレーニングのおかげかもしれないですね。ゴテンクスに合体する前のトランクスは、父であるベジータと一緒に重力室でトレーニングを行なっていました。

加藤 あの部屋はトレーニングの効果が相当上がると思います。トレーニングというのは体に負荷をかけて、その負荷に耐えられるように体が強くなっていくわけなので。それこそ何倍、何十倍もの重力がかかっていたら、その中で日常生活を送るだけでも筋肥大につながっていくと思います。


加藤直之(かとう・なおゆき)

1981年生まれ。9歳~20歳まで体操競技に取り組み、22歳からトレーニングを開始。2015年にゴールドジムに就職。ボディビルダーとしてフィットネスを学びながら、アドバンストレーナーとして勤務している。主な戦績は以下の通り。
2005年千葉県ボディビル選手権優勝/2008年関東クラス別選手権75kg級優勝/2011年関東ボディビル選手権優勝/2012年ジャパンオープン選手権優勝/2013年日本選手権9位/2014年日本選手権11位、日本クラス別選手権70kg級優勝/2019年日本選手権3位、日本クラス別選手権70kg級3位/2021年日本クラス別選手権優勝、日本選手権4位、IFBB世界選手権40ー44歳80㎏以下級3位/2022 日本クラス別選手権70kg以下級優勝、日本選手権4位、IFBB世界選手権ボディビルマスターズ40-44歳70kg以下2位、ボディビル70kg以下7位

取材・文/シュー・ハヤシ