二度のがんから生還。病室で筋トレを続けた理由とは?【筋肉博士・石井直方 INTERVIEW】




生きていることは、こんなにラクなんだ

――病気が発覚した時は、どのような心境だったのでしょうか。

石井 今は誰でもがんになる時代ですのでね。まあ、しょうがいないなと。とうとう来ちゃったかな、みたいな。最初の診断は、悪性リンパ腫の中でもめずらしいタイプで、あまり治療例がないと。検査に時間がかかって、進行が速くて、予後があまり良くないのではないかと言われました。なので、一応の覚悟はしなければいけない状況ではありましたね。最終的には「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」という、わりと普通にあるようなリンパ腫ということになったんですけど、治療例が少ないということで詳細に検査をした上で治療を決めてもらったので、それが良かったんでしょうかね。最初の抗がん剤を打った時に「これ効くんじゃないか」と思いましたので。苦しみの元みたいなのが体からすっと抜けていくような感じでした。

2016年6月のセミナー後。この翌月に入院した

――ステージ4でもそうなのですね。

石井 ステージ4というのは末期だということだけなので、悪性リンパ腫や白血病などの血液がんに関してはわりと治る可能性は高いですね。今は分子標的薬と言って、がん細胞を狙い撃ちするような薬もありますので。

――その後の回復も早かったように思います。

石井 早かったんじゃないでしょうかね。頭はしばらくツルツルでしたけど。体の慣れっておそろしいもので、調子が悪くてしんどい状態でも慣れてきちゃうんですよね。病院に行く前の腹水が溜まってしんどい状態にも慣れてしまって、その状態で生活しているような感じなので。治療がすっかり終わって家に帰って来た時の感覚って、生きてることそのものがこんなにラクなんだと思いましたね。生きてるのがラクだと普通は自覚しないんですよね。でもね、なんかすごくラクな、心地よい感じが……。食べ物もおいしいし、体もだんだん動くようになってくるし、そこから後は非常に順調に回復したんじゃないかと思いますね。

――そこで完治ということだったのでしょうか。

石井 「完全寛解」と言って、がんの痕跡はありませんというところまで行くんですよね。あとは3か月に一度ぐらい定期検査をして、再発していないかをチェックしていって、5年再発しなければ血液がんの場合は根治と言っていいんでしょうね。もう完璧に治りました、ということになるかと思います。

――では、血液がんのほうはもう大丈夫ということでしょうか。

石井 5年経った後に再発していないということだったので、もうそちらのほうは根治していると言っていいと思いますね。

――しかし、2020年に「肝門部胆管がん」という新たながんが見つかった。

石井 なにか重大なことが起きてるなという感じはあったんですね。でも最初と同じで、これもまた運命でしょうがないかなと。ショックというよりは、まず受け入れて、最善の処置ができればなという感じでしょうかね。幸い、これもいろいろな検査をしたら、なんとか手術で根治を目指せるという状況であったので、本人も根治を目指してがんばろうかなと。ひょっとしたら一番の種ができたのは、悪性リンパ腫と同じような時期だったかもしれないですね。その頃はものすごく忙しくて、ストレスが溜まる生活をしばらくしていたので。学位論文の審査なども普通なら引き受けられないような数を東大以外の大学のものもやっていましたしね。それから文科省の仕事とか、いろいろ公的な仕事などもあったものですから。あの頃にはもう戻りたくないような、そういう生活でした。

――その時は、どのような治療が行なわれたのですか?

石井 小さながん細胞一個でも取りこぼしてしまうとまた再発しますので、かなり大がかりに取り除くのが普通のようです。僕の場合、肝臓の右側の部分は全部取ってしまって、そこにつながっている胆管と胆のうも一緒に取ってしまって。それから胆管は十二指腸に開口する前に膵臓の中に潜り込んでいて膵管と一緒になっていますので、膵臓の3分の1ぐらいを取ってしまって、十二指腸の一部、肝臓を取り巻いているリンパ節などもごそっと取ってしまうという手術ですね。そうすると肝臓と膵臓の一部がむき出しになりますので、そこに小腸を引っ張ってきて直につないでしまって、小腸で胆管を再建する。それをまた十二指腸の近くにつないで、胆のうはないですけど胆汁が小腸のほうに流れるように。

ボトルに取った胆汁をコーラで割って飲む