がん患者への運動療法
――主なメニューは?
石井 スクワットですね。(イスから)ゆっくり立ち上がって、立ち上がったら、ついでだから2~3回やろうかみたいな。
――スロートレーニングで行なっていたのですか?
石井 スローのほうが筋肉に効くことは実証されていますし、立ちくらみで倒れたりとかもしませんし、途中でやめられるというのも利点だと思いますね。入院している時などは、スローでもわりとキツいスローかな。手術前の3週間ぐらいは、かなりやりこんでいました。4秒でしゃがんで、4秒キープして、4秒で立ち上がる。1動作12秒ぐらいで、10回目標ですね。最初は10回もできないので5~6回からはじめたんですけど、最終的には10回やり切るような。1動作12秒なので、10回だと2分間ずっとやる感じですね。
――頻度はどのくらいですか?
石井 週2回です。あとは体幹をやる日も週2回ありました。体幹はなかなかベッドの上で腹筋もできませんので、ベッドに座って少し上半身を後ろに倒して足を上げて、いわゆるエアバイシクルですね。自転車こぎのように。これキツいんですよ、すごく。ゆっくり大きくやると、すごくいい運動になりますね。
――同じような病気の方にも筋トレは推奨できますか。
石井 なかなか一般化しにくいんですよね。(がんは)全部個性があると言いますかね。症状も違えば、進行の度合い、抗がん剤の効き方も違う。副作用も一人ひとり違いますから、皆さんこれをやりましょうというわけにはいかない。あくまでも個々のレベルでできるかできないかを判断しながらやるしかないと思います。僕も最近は抗がん剤の副作用が募ってきて、貧血が出るんですよね。赤血球の数が普通の半分以下になっていますので、へたすると立ちくらみで倒れそうになりますから、あまりスクワットも引っ張れない。そういう場合は2~3回でもいいから脚の筋肉を意識しながらやればいいと思います。症状が悪化してしまったり、倒れてケガをしてしまったりしたら元も子もありませんので。まずはやれるところまでやってみる。無理だなと思ったらやらないですし、もうちょっとできそうかなと思ったらがんばってみる。回数にこだわらないで、1回なら1回でも。どうせイスから立ち上がるならゆっくり立ち上がろうとか、座るならゆっくり座ろうとか、そのあたりからはじめればいいのではないかと思います。
――いずれにせよ、筋肉の維持ががん治療に有効である可能性は高い。
石井 一般論としてそうであるということは、かなり広く定着していると思います。今、がんサバイバーのトレーニングの研究にも関わっているんですけれども、アメリカではがんサバイバーに対する運動指導をライセンス化したり、指導員の養成をしたり、かなりいろいろやっているようですね。適切な運動療法をすることが重要視されていて、極端な話、がん治療中であっても無理のない範囲で週2回の筋トレをしましょうというガイドラインまであるようです。
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石井直方(いしい・なおかた)
1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学院博士課程修了。東京大学名誉教授(運動生理学、トレーニング科学)、理学博士。力学的環境に対する骨格筋の適応のメカニズム、およびその応用としてのレジスタンストレーニングの方法論、健康や老化防止などについて研究している。日本随一の”筋肉博士”としてテレビ番組や雑誌でも活躍。著書は「筋肉まるわかり大辞典」「トレーニング・メソッド」「トレーニングのヒント」(小社)、「一生太らない体のつくり方」(エクスナレッジ)、「体脂肪が落ちるトレーニング」(高橋書店)など多数。ボディビル・ミスター日本優勝(81・83年)、IFBBミスターアジア優勝(82年)、NABBA世界選手権3位(81年)。
石井直方研究室HP
インタビュー/本島燈家