マッチョ漫画家が語る「筋肉」と「漫画」に共通する魅力とは?【漫画家・成田成哲#4】




筋肉だけで発展した世界を描いた漫画『筋肉島』。独自の世界観で人気の同作を生み出したのは、漫画家の成田成哲先生だ。今はプロとして連載を持つ成田先生も、ここに至るまでは数々の挫折があったと振り返る。ここでは、そんな成田先生の半生と今後の目標について聞いた。

◆成田先生が描く『筋肉島』のカラーイラスト

©成田成哲/集英社

漫画も筋トレも生涯成長を続けられる

――前回、デビューに至るまで幾度となく挫折があったと伺いました。大学で漫画を学んだ後はなかなか掲載が決まらず、一時期制作をやめていたのですね。

はい。その時は実家の工場の手伝いをしつつ、家に引きこもっていました。それでテレビゲームをしている時に「漫画家になるんじゃなかったのか!」と親に怒鳴られて、半分やけくそで3ヵ月間漫画づくりに没頭したんです。やりすぎて体を壊しましたが、その甲斐あって「週刊少年チャンピオン」の特別奨励賞を獲ることができました。そこからはデビューという形で掲載に移ったのですが、それからも幾度となく挫折しています。

――多くの挫折の中でも続けられたのは、どのような思いからですか。

成長することが好きなんだと思います。たとえばバスケならシュートがスパッと入るようになったり、そういう実感を得られるのは楽しいですよね。スポーツだと年齢とともにパフォーマンスが落ちていきますが、漫画は諦めない限りずっと向上していきます。これからも自分は理想の漫画を求めて、何だかんだ死ぬまで描き続けると思います。

――つねに成長を続けることができて、ゴールがないことが魅力ということでしょうか。

はい。「失敗は成功の母」と言いますが、改善して上を目指す作業が好きなんです。結局、求めることは成長ですね。漫画家はみんな頂点を取るまで、何かしら心に小さな挫折を抱えながら、それを払拭しようとがんばっていると思います。

――成長に終わりがないというのは、ある意味筋トレと共通する点ですね。

そうですね。ボディコンテストで高齢の方が活躍しているように、筋トレによる成長にも終わりはないと思います。自分も筋トレを始めてから、つねに今が一番パワフルだと感じるようになりました。だからもし40代になって体が弱ってきても、筋トレを本気でやり込んだら全盛期を更新すると思います。生涯成長を続けられるところが、筋トレと漫画に共通する魅力だと思います。

――成長を続けた先に見据えている目標はありますか。

一番は力が欲しいんですよ(笑)。自分の「面白い」という価値基準を世間に受け入れてもらえるような、漫画家としての力ですね。そのためには画力、構成力など、必要な要素を挙げればキリがありません。

――いくら自分が面白いと思っても、受け入れてもらえなければ売れない。シビアな世界ですね。

そうなんです。たとえば、『ONE PIECE』は尾田栄一郎先生の価値基準で描かれた作品ですが、世界中の人に愛され大ヒットになっています。どんな作品も最初は漫画家のアイデアなわけですが、それを人気作にできるかは漫画家の技量次第です。「自分の面白い」を「世の中の面白い」にする力をつけること。その先に、「成田先生が描いたんだから面白いだろう」と思ってもらえるくらいの影響力を持てるようになりたいですね。

――楽しくも険しい道のりだと思います。率直に漫画家としての日々は楽しいですか。

はい。もちろんプロとしての責任はありますが、自分がどんな職に就くより一番楽しく人生を送れていると思います。過去に挫折した時に感銘を受けたのが、井上雄彦先生が『バカボンド』の単行本巻末に「好きなことを仕事にするなと言われたけど、その言葉に逆らって良かったと思える」といった内容を書いていたんです。それを見て感動して、これが自分の理想だなと思いました。漫画の道を諦めずに進んできたおかげで、人生がとても楽しいです。

――これからも続く漫画家人生ですが、今後の目標はありますか。

死ぬまで成長を続けて「売れたい」に尽きますね(笑)。そのためには自己満足ではだめなので、プロとして多くの人によろこんでもらえる作品を描きたいです。漫画も筋肉も成長を続けられるよう、これからもがんばりたいと思います。


成田哲成(なりた・なりあき)
漫画家。集英社が運営する漫画誌アプリ「少年ジャンプ+」で漫画『筋肉島』を連載中。過去には、盲目の主人公を描いた格闘漫画『アビスレイジ』や、ボディビルダーのチートデーをテーマにした『マッチョグルメ』を発表し人気を博した。自身もトレーニングに励んでおり、SNSでは筋トレ風景などを発信している。

取材・文・写真/森本雄大
画像提供/集英社

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