約40分間の「極限集中」。“リアル・三井寿”がゾーンに入れる理由【金丸晃輔(後編)】




集中力。スポーツのみならず仕事においても、その力がパフォーマンスを大きく左右することは周知の事実だ。その中で極限の集中状態「ゾーン」という言葉を聞いたことはあるだろうか。

1クォーター10分×4セット。約40分間を闘い続けるバスケットボールにおいて、金丸晃輔選手は“精密機械”ともいえる活躍を見せている。2020年には1試合45得点(うちスリーポイントシュート11本)という数字を残し、Bリーグ所属の日本人選手における1試合最多得点記録を更新した。

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【フォト&ムービー】極限集中が生み出す境地。“リアル・三井寿”が見せる連続3P

まるでバスケ漫画の金字塔「SLAM DUNK」に登場するシューター・三井寿のように、入り始めたら止まらない凄みを見せる金丸選手。そんな彼がシュートを決め続けている時、まさに“ゾーン”ともいえる境地に至るのだという。

「調子がいい時は、本当にシュートを決めることに全集中していると思います。だから試合が終わった後、自分が決めたシーンしか覚えていないんです。歓声もブーイングも、誰からパスをもらったかも一切記憶になくて、残るのは自分がどこからどう決めたのかだけ。そのくらい研ぎ澄まされている時があって、そういうのを“ゾーンに入る”というんでしょうね」

「シューターにとって集中力は命です」と語る金丸選手だが、その意識を高めることは決して容易ではない。ましてや状況が目まぐるしく変わり、1試合走りっぱなしのバスケの試合だ。その中でも極限の集中力を発揮するために、彼はさまざまな工夫を施している。

「僕は正直、全然集中が続かないタイプなんです。自分の集中力の限界が1時間くらいなので、試合までにとにかく溜めて爆発させるんです。そのためにも意識の切り替えを大切にしています」

試合会場に行くのは集合時間ギリギリ。試合前には一切コートに入らない。試合で極限の力を発揮するため、金丸選手にとってバスケコートは聖地と化している。練習や試合以外でバスケのことを考えることも一切ナシ。とにかく頭のスイッチを切り替え、40分間の試合にすべての力を開放するのだ。多くの人が抱えるであろう「集中できない」という課題に彼は真摯に向き合い、極上の武器を手に入れた。

とはいえ試合で結果が出ず、上手く気持ちを切り替えられない時もあるそうだ。そんな時、金丸選手は決まってある場所を訪れる。

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集中力を回復させる“バス釣り”

「どうしてもバスケで嫌なことがあって、オンとオフを切り替えられない時があるんですよ。そういうモヤモヤを頭の中から排除してくれるのが、僕にとっては趣味のバス釣りなんです。釣り中は魚がどこにいるかしか考えていないですね(笑)。釣り場に行くとバスケを忘れることができるので、疲れていても無理して行ったりしていました」

「釣りありきのバスケ、バスケありきの釣りなんです」と金丸選手。精密機械も人の子ということだろうか、時にはリフレッシュを挟みつつ、集中力の貯金を積み上げている。

「スラムダンクで三井が『もうオレにはリングしか見えねぇ』と言うセリフがありますよね。あのシーンは体力の限界もありますけど、集中が研ぎ澄まされて外す気がしないという意味もあると思います。ああいう時にゾーンに入れるんだと思いますね。そのためにはメンタルの強さも必要不可欠です」

パフォーマンスを発揮するうえで、集中と同時に大切なのが精神力。溜めた集中力を持ってしても、好不調の波は必ず存在する。そんな中でも金丸選手は気持ちを切らさず、打ち続けることを大切にしているという。

「若い時は調子が悪いと『もう打つのをやめようかな』と思ったりしていました。ただ、そうしても何もいいことがないんですよね。そもそも、本当に自分がダメな時はヘッドコーチが変えると思うんです。だからそれまでは自分を信じて打ち続ける。コートにいる限りは何があっても決めるという気持ちでプレーしています。シューターにとって一番大切なのは、結局精神面なのかもしれないですね」

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プロ13年目を迎えての「これから」

日本が誇るシューターも、ベテランと呼ばれる年齢に差し掛かりつつある。がむしゃらに走ってきた若手時代とは精神状態にも大きな変化があるという。

「今までは自分が納得できるプレーをしたくて、とにかくがむしゃらにやってきました。試合でこれだけやりたい、こういう記録を残したいというのが原動力でしたね。今はもう体が全盛期ではないので、同じことをしていたら体が壊れてしまう。自分の目指すものを変えるフェーズなのかなと思っています。それが何なのかは探し中です(笑)」

なるべく長く現役を続けたいですか? という問いに対しては「長い目というより、1年1年を大切にしていきたいです」と金丸選手。目の前のことにベストをつくす姿勢こそが、極限の集中力や結果を生み出しているのだろう。

新たなステージを迎える“リアル・三井寿”がどのような境地に達するのか。歳を重ねようとも、彼の探求心に終わりはないのだ。

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