10月14-15日、東京体育館で新極真会主催「第13回全世界空手道選手権大会」が開催される。1975年の第1回大会以来、男子は王座(男子部門)を守り続け、4年前は女子も王座奪還に成功。過去最強とも言える海外勢が大挙来襲する中、空手母国ニッポンは王座を死守できるのか、注目が集まる。また、今回は初めて型部門が導入されるなど、見どころは盛りだくさんだ。開催に先がけ、緑健児代表に展望を聞いた。
――4年に一度の空手世界一決定戦も13回目を迎えました。
緑 この4年間は新型コロナウイルスの蔓延やウクライナ危機など、世界でさまざまな問題が発生しました。そういう中で、フルコンタクト空手の祭典であるこの世界大会を開催することができ、世界中の仲間たちが空手母国・日本に結集することをうれしく思います。世界最強最大の組織である新極真会の絆を再認識できる大会になると感じています。
――4年前の第12回大会では、日本が男女ダブル優勝を達成しました。また、昨年ポーランドで開催された第7回世界ウエイト制大会は、8階級中5階級を日本が制しています。現在の世界の勢力図をどのようにご覧になっていますか。
緑 たしかにポーランドでは日本から5人のチャンピオンが誕生しましたが、男女ともに重量級ではリトアニア勢が優勝を飾っています。今大会は日本にとって、今までで最も危機感のあるトーナメントであると言えるでしょう。ただ、チームJAPANの選手たちも志は高いですし、結束力も強固です。自分たちの代では絶対に王座を流出させない。たとえ自分が負けても、少しでも相手にダメージを与えて次にバトンタッチする。長年にわたってそうした伝統を継承してきた歴史があるので、男子主将である入来建武選手をはじめとした今大会出場の選手たちも先輩たちと同じ強い気持ちで臨むでしょう。
――海外勢の主力としては、やはり世界ウエイト制で男子重量級を制したエヴェンタス・グザウスカス選手が挙げられますね。
緑 最も警戒すべき選手ですね。4年前も6位に入賞していますが、その後はヨーロッパ大会を連覇してさらに力をつけています。直近の世界ウエイト制で優勝していることからも、現時点で最も世界チャンピオンの座に近い選手と言えます。また、グザウスカス選手と世界ウエイト制の決勝を争ったマシエ・マズール選手、グザウスカス選手とリトアニアで競い合ってきたパウリウス・ジマンタス選手など、シードに入っている選手たちはまぎれもない優勝候補だと思います。さらに6度目の世界大会出場となるヴァレリー・ディミトロフ選手にも注目したいですね。ヨーロッパ大会で22度の優勝という実績は賞賛に値しますし、まさにレジェンドと言える存在です。武道家らしい態度や佇まいも多くの選手に見習ってほしいと思います。
――強豪国の一つであるカザフスタンも、今大会前に日本に空手留学を行なうなど貪欲に準備を進めてきています。
緑 カザフスタンは新世代が台頭してきていますね。他の国も同様ですが、世界大会では実力未知数の若手選手が突如として勝ち上がっていくこともあるので目を離せません。また、今大会には戦争の最中にあるウクライナの選手もエントリーしています。彼らは戦地にありながらも稽古を続けていたそうですが、道場生の中には亡くなった人もいたと聞いています。このような大会が心の支えになっている面もあると思いますので、日本にいる間だけは戦争のことを忘れ、全力で自分自身の空手を表現してほしいと思います。
――女子トーナメントはいかがでしょうか。
緑 世界ウエイト制で重量級を制したブリジタ・グスタイタイテ選手、そして日本のエースにして初の世界の舞台となる18歳の鈴木未紘選手が軸になると思いますが、トップレベルの闘いですから予想が難しいですね。男子同様、要所で激しい上位進出争いが繰り広げられるでしょう。
――そして今大会からは、ついに型部門がスタートします。
緑 新しい歴史の始まりですね。型をメインに稽古している選手たちはこの日を待ち望んでいたと思いますし、私自身も非常に楽しみにしていました。組手では世界最強の闘い、型では世界で最も美しい闘いを選手たちに期待しています。それがフルコンタクト空手の魅力をさらに広くアピールすることにつながると思います。型部門は今回が初ですが、見ごたえのある闘いが繰り広げられると予想されます。とくにヨーロッパでは以前から型の大会が行なわれてきたので、かなりレベルが高いと思います。日本としては組手・型ともに男女ダブル優勝を期待していますが、非常に厳しい闘いになることは間違いないでしょう。
――次代を担う子どもたちも、今大会を見て世界の舞台を目指すと思います。
緑 そうですね。日本においてはカラテドリームフェスティバルで入賞した選手たちを招待しています。海外から応援のために来日する子どもたちも、最高峰の闘いを記憶に刻みつけると思います。そしていつか、そんな彼らが主役になる時代がやって来ます。その日を目標にがんばってほしいですね。この舞台で闘う選手たちは、そんな子どもたちの憧れの対象になるので、強さ、美しさを体現するだけでなく、礼儀・礼節も含めて模範となるような姿を見せてくれることを望みます。また、この大会は神聖な武道の闘いなので、観客の皆様も勝敗に対してブーイングなどをせず、選手たちとともに最高のステージをつくり上げてほしいと思います。
――観客やサポーターも、素晴らしい大会をつくる役割の一端を担っているということですね。
緑 新極真会は世界103の国と地域に広がる武道です。選手たちも高い競争率の選抜を勝ち抜いた各国の誇る空手家ばかりですから、それを見守る空手ファンにも武道精神の素晴らしさが浸透していくことを願っています。「人事を尽くして天命を待つ」という言葉があるように、選手たちはやるべきことをすべてやり切った上で出場しているはずです。ぜひ自分の持てる力を発揮し、悔いのないよう正々堂々と最後まで闘い抜いていただきたい。そして試合が終わればノーサイドですから、国境を越え、武道を通した友情を育んでほしいと思います。全選手の健闘をお祈りします。押忍。
【大会情報】
第13回全世界空手道選手権大会
主催:全世界空手道連盟新極真会
日時:2023年10月14-15日(型部門は14日)
会場:東京体育館
新極真会HP
文/本島燈家
写真/新極真会