“くびれ”が生まれるメカニズム
「外観に性差が表われる生物が多い」と以前のコラムで書きました。成長とともにオスはオスらしく、メスはメスらしくなっていき、それぞれが異性をひきつける魅力を高めていくので、「一目ぼれ」が起こるのも必然的であるわけです。
人間の場合、思春期までは体つきにあまり男女差はありません。小学生くらいなら、後ろ姿では男女の区別がつかないことも少なくないでしょう。思春期にさしかかると次第に体に変化が起こります。その原因は性ホルモンです。
男性は男性ホルモンが多く分泌されることで筋肉が発達しはじめ、男らしい体になっていきます。とくに僧帽筋、三角筋など、男性ホルモンの受容体が多い筋肉が強調されてきます(アナボリックステロイドを使った場合も、僧帽筋や三角筋が発達しやすくなります)。
つまり、生物学的な男らしさは、肩から上腕あたりに表われると言えます。そこで筋トレを行えば、さらに男らしい逆三角形の体ができやすくなるわけです。
女性も思春期になると筋肉は発達します。ただ男性ほどではなく、むしろ脂肪の量が増えていくほうが目立ちます。また、骨盤が広がり、そのわりにウエストが締まってくるなど、骨格的な“くびれ”がはっきりしてくるという変化が起こります。そのような体型になることが、遺伝子的にプログラムされているのだと考えられます。
少し前までは、「女性ホルモンは筋肉の成長に抑制をかける」と考えられていました。しかし現在、それは間違いであるという流れになりつつあります。女性ホルモンも、女性が筋肉をつける上でそれなりにプラスの効果があることがわかってきたからです。
男性ホルモンの効果が強い筋肉では、もしかすると女性ホルモンが抑制的に働く可能性もあります。しかし、男性ホルモンの受容体が少ない筋肉には、女性ホルモンがプラスに働きかけ、筋肉を発達させやすくすると現在では考えられています。つまり、女性ホルモンが発達させやすい筋肉と、そうではない筋肉があるということです。
そもそも体型をつくるのは、脂肪ではありません。まず骨格が基本的な形をつくり、その上に筋肉があり、さらにその上に脂肪が乗っているわけなので、脂肪によってつくられる部分は最終段階に過ぎません。
男女の違いも、まずは骨格に表われます。なかでも最大の特徴は、前述した骨盤の広さ。相対的に骨盤が広くなる女性は、それに合わせて太ももの骨の構造なども男性と異なってきます。これは出産しやすくするためだと考えられます。男性がくびれのはっきりした女性を好むというのも、骨盤が広いほうが子どもを産みやすいという本能的な理由である可能性があります。そのベースの上に、女性らしい体をつくるための女性ホルモンが働けば、より女性らしい体になっていくということになるわけです。
では、そこで筋トレを行うと、どうなるでしょうか?
男性と同じような筋トレをしたとしても、男性を象徴する部位には筋肉はつきにくいので、ナチュラルにトレーニングをしていけば、おのずと女性らしい体がつくられるように筋肉が発達していくと考えられます。
おそらく何のトレーニングもしない女性より、あるいは男性ホルモンをとるなどして過剰にムキムキのボディを目指す女性より、一般的なトレーニングを積んだ女性のほうが“くびれ”がはっきりしやすいと思います。
最近はお尻を大きく丸く発達させるトレーニングもブームになっています。お尻は女性らしさの一つの象徴なので、より女性らしくあろうという思いの表われなのかもしれません。
骨盤の幅が広い女性は、そこにしっかりと筋肉をつけていくことで男性よりもお尻を発達させやすいと言えます。理にかなったトレーニングを積めば、キュッと上がった綺麗なお尻が比較的短期間でできると思います。
※本記事は2017年に公開されたコラムを再編集したものです。
1955年、東京都出身。東京大学名誉教授。理学博士。専門は身体運動科学、筋生理学、トレーニング科学。ボディビルダーとしてミスター日本優勝(2度)、ミスターアジア優勝、世界選手権3位の実績を持ち、研究者としても数多くの書籍やテレビ出演で知られる「筋肉博士」。トレーニングの方法論はもちろん、健康、アンチエイジング、スポーツなどの分野でも、わかりやすい解説で長年にわたり活躍。『スロトレ』(高橋書店)、『筋肉まるわかり大事典』(ベースボール・マガジン社)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など、世間をにぎわせた著作は多数。