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禁止薬物は「体を壊さなければ使っていい」ものなのか【ドーピング問題を考える】




※画像はイメージです

ボディビル・フィットネス業界において、つねに蔓延するドーピング問題。トレーニーたちは、なぜ禁止薬物に手を出してしまうのか、そもそもなぜそれはやってはいけない行為なのか。この連載では、さまざまな視点からアンチドーピングについて考えていく。今回は、“100%ナチュラル”を掲げるボディビル団体「全日本ナチュラルボディビルディング連盟(ANNBBF)」の理事/国際ドーピング委員会委員長を務める井上大輔氏に話を聞いた。

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教育者・指導者の不在は蔓延の一因

――まず、なぜドーピングはやってはいけない行為なのでしょうか。

「大きくは二つあります。われわれはボディビルをスポーツとして捉えて大会を運営している団体であるので、『公正さ』は保たれなくてはいけません。それがないと、そもそもスポーツではなくなります。では、なぜドーピングをしたらスポーツではなくなるのかと言えば、禁止薬物は多く摂取すればするほどパフォーマンスが向上する、同時に多く摂取すればするほど健康を害してしまうものだからです。そうなると、もはやスポーツではなくなり、健康を害しないようにどれだけ摂取するかという我慢比べのようなものになってしまいます」

――二つ目は、やはり健康被害ですか。

「そうです、ステロイドなどの薬物使用には副作用があることについては言うまでもないでしょう。アメリカをはじめとする海外では、1980年代にドーピングをしていたボディビルダーが多く亡くなっている状況です。また、ロイドレイジと呼ばれる、ドーピングによる精神不安定から殺人や自殺が増え、社会問題にもなりました。そういう面を考えれば、根本的に良いものではないと言えると思います」

――「基本的に良くないもの」という認識は多くの人が持っているのではないかと思います。それでも手を出してしまう人が多い理由はどこにあると考えますか?

「ボディビルという業界に限った話ではありますが、昔はボディビルで大会に出るとなれば、ANNBBFの元である関西ボディビル協会(1954年発足)から日本ボディビルディング連盟(NBBF)へ続いてきた団体と、現在の日本ボディビル・フィットネス連盟(JBBF)の前身である日本ボディビル協会(1955年発足)の流れをくむ二択で、どちらも加盟しているジムに所属していることが大会出場の条件でした。そのため、ジムのオーナーなど“先生”の立場となる人が、マシンの使い方やトレーニング方法、もっと言えば挨拶まで、スポーツマンとしての教育を行なってきていました。当然そこには、アンチドーピングの教育も含まれます。その流れは現在も続く一方で、近年は24時間ジムの増加やSNSの発展による情報入手手段の多様化などにより、“我流”のトレーニングでボディビル大会に出場する選手が増えました。もちろんそれ自体は悪いことではないですが、教育者・指導者がいない中でトレーニーが生まれているのは、ドーピングが蔓延する理由の一つではあると思います

――指導者がいない現場の選手たちに向けては、やはり井上さんが展開されているような、アンチドーピングの正しい理解を広める活動が必ず必要になるわけですね。

「アメリカでも日本でも、実際にドーピングをしている人たちがみなトレーニングを極めているかと言うと、そうではありません。大会に出て一定のレベルまで鍛え上げている人は、ある意味そんなことをしなくても、“自分の力でがんばろう”という発想になります。ですがトレーニングをちゃんとやれていない人ほど、労力をかけずに簡単に筋肉をつけたいと思ってしまう。“3年がんばればYouTuberのような体になる”と言われても、待っていられないんですよね。あるいは、とりあえず目の前の大会で勝ちたいという人も同じです。トレーニングやボディビルをスポーツとしてやるのではなく、ファッションとしてやっている人は“体を壊さなければ使ってもいい”という発想になってしまうのだと思います

(続く)

文/木村雄大