女性は社会的にも大切に守られるべき存在 いざという時のために男性は筋力や体力を養っておくべき




「積極的に社会で活躍しようという女性が増えた分、待っていても女性のほうから声をかけてくれるかもしれない、という余裕が男性に生まれたのではないか」「異性との出会いに対する危機感が少なくなったことで、結果的に草食系と呼ばれる男性が増えたのだとすれば、これは人間という種にとってはそれほど重大な問題ではないのかもしれません」。以前のコラムで、このようなことを書きました。

男性が昔と比べて積極的な「求愛活動」をする機会が減ってきているのは事実のようで、それに呼応するように筋トレで体を鍛えようとする女性が増えてきているのは面白い現象です。

もしかすると男性が求愛しなくなった分、女性が「肉食系」に変貌しないと人類が滅びてしまうかもしれないという、生物としての本能的な生き残り戦略が集団心理の奥底にあるのかもしれません。そうなると、この先にはアマゾネスの世界のような未来が待っている可能性もありますね(笑)。

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ただ、生命科学者の観点から見ると、生物界というのは、そもそも女性中心の世界です。動物も昆虫もメスがいなければ子孫の繁栄は決して望めないので、オスとメスのどちらが大事かと言えば圧倒的にメスなのです。極論すると、種の存続においてオスが必要とされるのは精子だけ。メスの付属品というのは言いすぎですが、生命科学的にはメスのほうがはるかに重要な役割を担っているのは事実です。

つまり、生物としての役割を考えた場合、女性は子どもを産み、しっかり育てていれば、うちで寝てばかりいても責められるものではありません。これは性差別ではなく、もちろん女性が社会進出してはいけないということでもありません。あくまで生命科学的な見地で言った場合ですが、働かない人がいても責めてはいけないということ。そのくらい女性は大切な存在であるということです。私はとりわけフェミニストというわけではありませんが、女性は社会的にも大切に守られるべき存在であると思います。

暑さや寒さ、痛みなどに対しても女性のほうが男性より強いと言われています。これも生物として生き抜く力が必要だからでしょう。その女性が体を鍛えはじめ、筋力的にもより強くなろうとしていることは、とくに問題視されることではありません。ただ、男性が「草食化」が進んでいくとしたら、あまり好ましくない現象でしょう。オスの重要な役割は、大切な存在であるメスを外敵や飢餓から守り、子孫繁栄の不安を取り除くことだからです。

生物のなかにはメスのほうがオスより体が大きい例もありますが、人間の場合は男性のほうが平均的に体は大きく、筋肉量も豊富です。これは筋力や体力を使って仕事をすることを本来求められていることを意味します。実際、それによって社会が成り立ってきたという歴史もあります。

男性の心がやさしくなるだけならいいのですが、筋力や体力まで衰えていくとしたら生物として危機的な状態になってしまいます。ITやオートメーションの発達により体を使う仕事が減ってきているとはいえ、いざという時のために男性は筋力や体力を養っておくべきでしょう。

女性が筋トレに目覚め、社会全体が筋肉に注目しているのは素晴らしいことです。男性のトレーニング人口も増えていると思いますが、ぜひより多くの男性に自分の体と真剣に向き合い、鍛えることを考えてほしいと思います。

 

※本記事は2017年に公開されたコラムを再編集したものです。

【解説】石井直方(いしい・なおかた)
1955年、東京都出身。東京大学名誉教授。理学博士。専門は身体運動科学、筋生理学、トレーニング科学。ボディビルダーとしてミスター日本優勝(2度)、ミスターアジア優勝、世界選手権3位の実績を持ち、研究者としても数多くの書籍やテレビ出演で知られる「筋肉博士」。トレーニングの方法論はもちろん、健康、アンチエイジング、スポーツなどの分野でも、わかりやすい解説で長年にわたり活躍。『スロトレ』(高橋書店)、『筋肉まるわかり大事典』(ベースボール・マガジン社)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など、世間をにぎわせた著作は多数。