「全日本ナチュラルボディビルディング連盟(ANNBBF)」と「世界ナチュラルボディビルディング連盟(WNBF)」では、“100%ナチュラル”を貫くべく、各大会でドーピング検査を徹底的に実施している。ANNBBF理事/国際ドーピング委員会委員長を務める井上大輔氏に、その実態について聞いていく。
【第2回】「ステロイドでいずれ亡くなる人が出てくる」10年後の日本の未来
検査官は凶悪犯と対峙した元FBI捜査官
――実際にANNBBFでは、どのような検査方法を実施していますか。
「多くの人がイメージするだろう尿検査です。これが実は、非常にコストがかかります。インフルエンザの検査やPCR検査と同様に、検体に対して禁止薬物の成分が陽性であるか陰性であるかを一つずつ確認しなければなりません。そのため、新たに禁止物質の種類が増えれば増えるほどコストはかさみますし、WADA(世界アンチドーピング機構)のような大きな検査機関でなければ実施できません。私たちがアフィリエイト契約をしているWNBF(世界ナチュラルボディビルディング連盟)も大きな研究施設を持っており、そこと提携しているANNBBFも1検体あたり非常に安価で検査が実施できます」
――具体的には?
「1検体あたり約60ドル、日本円にして約9,000円です。われわれは団体としてそれをすべて負担できるほど潤沢な資金があるわけではないので、選手の大会出場費に含ませていただいています。出場費は基本18,000円と他団体と比べてやや割高にはなりますが、検査結果は全員に証明書をお送りするので、言うなれば9,000円はナチュラルであることの証明料。そう考えると、決して高くはないと考えています」
――血液検査についてはいかがでしょうか。
「これも尿検査と同様でコストがかかります。成長ホルモンやインスリンなど、尿検査では発見しにくい物質も見つかりやすいという利点はありますが、血液の採取が医師ではないと実施できず、大会ごとに医師を呼ぶとなると、実施するにはハードルが高い方法と言えます」
――昨年11月にバズーカ岡田先生が出場し、マスターズクラス優勝で話題にもなったWNBF主催の世界選手権においては、ポリグラフ検査(嘘発見器)も行なわれていますよね。
「はい、これはボディビル競技においてはWNBFだけだと思います。アメリカには、FBI(連邦捜査局)を退局した人たちが結成している機関があり、そこと提携し、元FBIの人たちが大会の会場に来て質問によって嘘発見器の検査を実施しています。世界の凶悪犯を取り調べしてきたような人たちが検査官ですし、心拍数などだけではなく生理反応から確認するので、逃れられるものではありません。この方法によるデメリットとしては、いわゆる“うっかりドーピング”は発見できません。当然ですよね、本人は使用したつもりがないわけですから。とはいえ、うっかりステロイドを服用する人はほぼいないと思います」
――ちなみに他団体の話になり恐縮ですが、同じくアンチドーピングを掲げるJBBF(日本ボディビル・フィットネス連盟)では、全国レベルの大会でも100%の検査は実施していません。「なぜもっと検査をしないんだ」という声も聞こえてきます。
「JBBFさんはJOC(日本オリンピック委員会)の加盟団体であり、JADA(日本アンチドーピング機構)の協力の下で検査を実施していますよね。その信頼性がある一方で、JADAは他のスポーツの検査も当然行なっていますし、その中の何割をボディビル・フィットネスに充てるかという中での実施だと思います。ですので、指定された大会が対象になったり、検査数が限定的になったりするのではないかと思います。JBBFさんとしても、やりたくてもやれない現状があるのではないでしょうか。そのため昨年から独自の取り組みとして、簡易検査を導入しているのだと思います」
――ANNBBFとしては、いずれポリグラフ検査の実施も予定していますか。
「はい、導入したいとは思っています。とはいえ、アメリカから検査員を呼ばなくてはいけないなどの障壁はあるのですぐにとはいきませんが、いずれ実現できればと思っています」
(続く)
文/木村雄大