女子プロレス団体スターダムのスターライト・キッドは、団体唯一の覆面レスラーだ。2015年10月11日にデビューし、2年前に「年齢不詳」で成人式を迎えたという。ヒールでありながらリングを縦横無尽に駆け巡る超高速のファイトスタイルは、かつての悪役レスラーのイメージを一掃。悪のユニット大江戸隊の一員として、唯一無二の個性を光らせている。
もともとキッドはマスクを被るつもりはなかったという。かつてスターダムではキッズレスラーの枠があり、実年齢からしてもそのカテゴリーに入るはずだった。が、所属レスラーの不足という内部事情や早くから素質を見込まれていたこともあり、キッズ枠ではないデビューが決定。本人は素顔でリングに上がるつもりでいたのだが、あまりにも幼く見えたという問題から、マスクを被ってのデビューが決められたのだ。
あれから月日が経ち、トップレスラーのひとりとして君臨するキッド。身長150センチ、体重50キロと身体は小さいが、身上とするスピードや自己プロデュース力で存在感を増してきた。もちろん、日々の努力は欠かさない。その裏で、じつはトレーニング嫌いという葛藤とも闘ってきたのである。
「最近は2か所のパーソナルジムに通っているんですよ。私、パーソナルじゃなきゃできないっす(笑)。そもそも筋トレ自体がメッチャ好きってわけじゃないし、ひとりだと甘えちゃう。予約して無理やり行く状況をつくらないとできないんですよね」
取材で訪れたパーソナルジムでは、主に筋量アップを目的としたトレーニングを行なっている。こちらはレスラーとしての体づくりで、もうひとつは彼女のプロレススタイルに直接活かされるトレーニングとのことだ。
「デビュー当初は自重でのトレーニングを主にしていたんですよ。その頃、食事に関することを気にしながら練習していたら、やり方間違えてメッチャ体重が増えてしまったんですね。逆に食事制限をしたら、自分は食べることが好きだからストレスになっちゃって、肌が荒れたり体に支障が出てしまったんです。なので、そこを注意しながら筋トレをするようになり、現在のトレーナーの水田さんにお会いして、そこからガッチリできるようになりました。
体重もいい感じで増えて、体も大きくなりましたね。もうひとつのジムではインナーマッスルを鍛えたり、有酸素運動を中心にやってます。レスラーはヒザを壊しやすいので、そこの強化とか、止まったときにすぐ次の動きにいける練習で瞬発力をつけたり。20秒間動いて10秒休憩の繰り返しをするサーキットでスタミナを向上させる。つまり、スターライト・キッドらしい動きのためのトレーニングですね」
実際、ジムを掛け持ちするようになってから「力強さが出た」とか「以前よりも動きにキレがある」との声が増えたという。形として現われたのが、21年8月29日のハイスピード王座奪取だった。かねてから目標としていたタイトルで、その名の通りハイスピードスタイルの選手にとって最大の勲章。キッドは8度目の挑戦でようやくこのベルトに到達した。筋量アップとスピードを意識したトレーニングの賜物だ。
有酸素運動を取り入れたトレーニングに本格的に取り組んだのは、その年の6月のことだった。このとき、キッドはまだベビーフェース。スターダムの正規軍STARSのメンバーだった。小さくとも懸命にファイトする姿はいかにもベビーフェース。誰もが思わず応援したくなるキャラクターだ。しかし、6・12大田区総合体育館でのSTARS vs大江戸隊全面戦争に敗れ、ルールによりキッドは強制的にSTARSを脱退、大江戸隊に加入させられることとなってしまう。絶対的ベビーフェースからのヒール転向を強いられたのだ。
(後編に続く)