栄養摂取のトレンドワードは「朝タン」 朝食のタンパク質が「筋育」に有効な2つの理由




“筋育栄養士”竹並恵里さんによる集中講座。今回のテーマは朝食でのタンパク質摂取の重要性です。

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なぜ昼・夜よりも朝のタンパク質摂取が重要なのか

みなさん、「朝タン」という言葉をご存知ですか?

今回は、栄養の世界でトレンドになりつつあるこのワードについてお話していきたいと思います。

「朝タン」とは、朝のタンパク質摂取のこと。筋育の有効な栄養戦略として今、この「朝タン」が注目されています。その理由は2つ。

まず、図1を見てください。こちらは、若者・中年・シニアの各世代が、各食事でどのくらいタンパク質が摂取できているかを調べた結果です。これを見ると、最もタンパク質の摂取量が少ない食事は、どの世代も朝食であることが一目瞭然です。

現代人は朝食を欠食する人が多く、食べている人でも朝食からタンパク質をしっかり摂れている人はとても少ない状況です。若い世代においても、以前にお伝えした、筋肉の合成が最大限に高まるとされる1食あたりのタンパク質摂取量(閾値:0.24g/kg)に達していません。

図1

逆に夕食は閾値を大きく超えて朝食の3倍近くのタンパク質を摂取しています。しかし、閾値を大幅に超えたぶんは筋肉の合成に利用されない可能性が高いので、このような食べ方は非効率と言えます。

筋育を効率よく進めるためには、3食全てで閾値を超えていることが重要です。現代人は、朝食で閾値以下になっている方が多いことが推察されるので、まずタンパク質を追加すべきは朝食に、となるわけです。夕食のタンパク質摂取量が過剰気味の方は、過剰ぶんを朝食に移行させることで、筋育の効率アップが期待できます。

続いて「朝タン」をおすすめする2つ目の理由ですが、これがとても興味深い内容です。

図2のグラフは、2021年に報告された研究結果です。1)の研究では、マウスを3つのグループに分けて1日のタンパク質摂取の割合をそれぞれ、①朝食で多めに摂取、②夕食で多めに摂取、③朝と夜で均等に摂取する形にして、筋肉の増加率を比較しました。すると意外なことに、朝食で多めに摂取したグループの増加率が最も高いことが確認されました。

図2

タンパク質の「まとめ食い」は非効率のはずでしたが、なぜ朝のまとめ食いはプラスに働くのでしょうか。

これには「体内時計」が関わっていると考えられています。目覚めて最初に食べる朝食は、体内時計の調節に非常に重要な役割をはたしていることが様々な研究で解明されていますが、その朝食でタンパク質をしっかり摂ると、体内時計を介して筋肉の合成も促進される可能性が示唆されています。つまり、「朝」というタイミングが非常に重要であるということ。これはとても興味深い報告です。

また、図2の2)は、日本人の高齢女性を対象とした調査結果です。朝食のタンパク質摂取量と筋肉量の関係を示したものですが、朝のタンパク質摂取割合が多い人ほど骨格筋指数(四肢の骨格筋量を身長の二乗で割った値、筋量の指標として用いられる)が高いことが報告されており、朝食でタンパク質摂取を充実させることが筋育にプラスの効果をもたらしている可能性がうかがえます。

このような理由から、朝にタンパク質を摂取することは、筋育においてとても重要であると考えられています。これを世の中に広めていくため、私たちは「朝タン」というシンプルな言葉にして啓蒙活動を行なっています。

みなさん、朝はいろいろと忙しいとは思いますが、ぜひ朝タンを実行してみてください。きっと嬉しい変化が得られるはずです!

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竹並恵里(たけなみ・えり)
管理栄養士、健康運動指導士。専門は多世代に対応した「筋育栄養学」。プロテインでおなじみ「ザバス」の研究開発やオリンピック選手の栄養サポートに従事した後、筋肉から健康を考えるため、東京大学大学院の博士課程で“筋肉博士”こと石井直方氏(東京大学名誉教授)に師事し博士号を取得。現在は東京大学で特任研究員として勤務しつつ、専門学校などでも栄養学の講師を務めている。著書は「筋肉をつくる食事・栄養パーフェクト事典」(ナツメ社)、「進化系!筋肉男子の栄養学」(ベースボール・マガジン社)、「炭水化物の摂り方・選び方パーフェクト事典」(ナツメ社)など多数。

構成/森本雄大
資料提供/竹並恵里