近年、注目を集めているボディビル、ボディメイキングだが、大学生の間でもじわじわとそのブームは広がっている。
鹿児島県の大隅半島にある鹿屋体育大学は、九州大学サッカーリーグで13度の優勝を誇るサッカー部があるほか、野球部が昨年の全日本大学野球選手権大会でベスト8進出を果たし、さらに先のパリ五輪でも体操男子団体で卒業生の杉野正尭さんが金メダルを受賞するなど、「日本唯一の国立体育大学」として全国にその存在感を示している。そんな鹿屋体大にまたまた「強豪クラブ」が誕生した。
体育大学とあって、錦江湾を望む高台にあるキャンパスは広大で、その中には複数のトレーニングルームがある。その中でもマシン系の施設が最も充実しているのが、学舎とグラウンドの中間、キャンパスの中央に位置する「トレーニング場」だ。ここでの若者たちの出会いが、創部すぐに頭角をあらわした「強豪クラブ」を生んだ。彼らは週3回、夕方にここでトレーニングに励んでいる。
創部2年目のバーベル部が今年9月に行われた九州学生ボディビル選手権、九州学生フィジークチャンピオンシップにおいて、快進撃を繰り広げたのだ。また、全日本学生オープンボディビル選手権において団体優勝を飾ったほか、全日本学生オープンビキニフィットネスでは2人の大学院生が1位2位を独占。そして九州学生ボディビル選手権では4年の宮本藍(あお)が優勝するなど、受賞ラッシュとなった。
突如として大学ボディビル界に現れた感のある鹿屋体大バーベル部だが、その「強さ」の秘密とは何だろう。先の大会で優勝した同部の主将でもある宮本選手を中心に話を聞いた。
「大学強豪クラブ」と言えば、高校レベルでトップ選手だったつわものたちが集まるイメージだが、文武両道を掲げる同大学のクラブにはそのイメージは重ならない。バーベル部も同様で学生たちがゼロから立ち上げたものだ。
同大に入ってくる学生の多くは、体育科の教員や運動指導士などの資格を取るために入学してくる。その中には、専門学校から資格取得を目指して編入してくる者も多い。宮本選手もそんな編入生として昨年春に3年生として入学してきた。そこで出会ったのが、同級生の宇地原亮選手だった。
高校時代はバレーボールをプレーしていた宮本選手だったが、大学入学後入りたいクラブもなく、ひたすらウエイトルームでひとりトレーニングに励んでいたという。
「バーベル部の部員の多くは、僕をはじめとして沖縄出身者が多いんです。沖縄は結構トレーニングが盛んでウエイトジムが多いんですよ。僕も高校時代に補強トレーニングでウエイトトレーニングはしていたんですけど、それでハマっちゃって、こっちに来てからも続けていたんです」
1年時からひとりもくもくとトレーニングに励む宇地原選手の前に現れたのが同い年で同郷の宮本選手だった。彼もまたトレーニング場に足を運び「常連」となっていた。ふたりが意気投合するのに時間はかからなかった。彼らはウエイトルームで顔なじみになった同志たちを集め、教員に直談判。昨年バーベル部を立ち上げた。創部間もない9月には早速創設者のひとり、宇地原選手が九州学生ボディビル選手権フィジークチャンピオンシップで優勝、さらに同月に行われた第57回全日本学生ボディビル選手権大会のメンズフィジーク176cm以下級で4位入賞をはたしている。
現在の部員数は10数名。競技の特性から毎日の練習は必要ないため、他部との兼部者も複数いる。本格的な活動を初めていきなりの「受賞ラッシュ」だが、ライバル校などは意識しないという。「あえて言えば、日体大、東海大が強いんですが、ライバルって言われても、結局、自己研鑽の競技ですから、あんまり他人は気にしませんね」という答えが返ってきた。
体大ということもあって、学生全体に食に対する意識は高いが、やはり「見た目」がものをいう競技だけに、バーベル部員の意識の高さは別格だ。学生とアルバイトは切っても切れない関係。バーベル部員も講義とトレーニングの一日を終えると、夜はアルバイトに精を出している。本来なら、トレーニング施設のあるジムなどでバイトできれば一石二鳥なのだが、それを叶えているのはひとりだけ。部員の多くは、鹿屋体大生定番の飲食店の店員をしているという。地方都市の鹿屋という土地柄、学生のバイト先はどうしても居酒屋などの飲食店に限られがちになる。鹿屋の町の居酒屋の若いスタッフのほとんどは体大生と思っていいくらいだ。
その飲食店でのバイトは、賄い付きとあって学生にとっては「おいしい」バイトだ。しかし、バーベル部員にとっては、バイト先での賄いはしばしば禁断の誘惑となる。減量が必要な大会が近くなると、賄いは遠慮し、うちに帰って自炊するらしい。
「まあ、バイト中おいしそうなものが目の前を行き来するのを見た上、賄いも遠慮するのは結構つらいですけどね(笑)。うちに帰っての自炊はもう鶏むね肉一択です。スーパーに行けば、鹿児島のソウルフード、鶏たたきもありますし」
全国各地から鹿屋の地に学びにきたバーベル部員は、すっかり鹿児島になじんでいた。
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