5種目で勝つ柔軟性の磨き方 近代五種女王が実践するストレッチの使い分け【才藤歩夢(後編)】




1日の中でまったく質の異なる5種目に挑む近代五種。2019年・2023年に同競技の全日本選手権を制した才藤歩夢さんは、2028年のロサンゼルスオリンピック出場を目指して練習を積んでいる。

【フォト】ハードな障害物レースに挑む才藤さん

そんな中でロス五輪に向け、近代五種の競技改定が話題を呼んだ。近代五種はもともと射撃、ラン、水泳、フェンシング、乗馬の5種目に取り組むものだったが、乗馬の代わりにオブスタクルスポーツ(人気番組『SASUKE』の海外版『ninja warriors』をベースにした障害物レース)が正式種目に採用されたのだ。

オブスタクルは「走る」「跳ぶ」「登る」「つかむ」などさまざまな動きを通じて、選手が自らの肉体的・精神的な限界に挑んでいくハードな種目。今まで取り組んだことのないに動き対して、才藤さんはストレッチの重要性を再認識したと語る。

「オブスタクルではぶら下がる動きなどが入ってくるので、十分なストレッチをしないまま臨むと腕や肩まわりなどに痛みを感じることがありました。体重を腕で支えたり、急に筋肉が引っ張られたりするシーンが今までなかったので、まだ慣れないですね。競技前のウォーミングアップや日常のケアなどを試行錯誤しています」

もともと高い柔軟性を持っていた才藤さん。フェンシングでは股関節を大きく開く機会が多く、接触によるケガのリスクもあることから、普段からストレッチには気を遣っていた。しかしオブスタクルを通じて、柔軟性だけでなく筋力の重要性も実感したと言う。

「柔らかいだけではダメだと思いました。筋肉に急にテンションがかかったりして、自分の可動域以上の負荷がかかるとケガをしてしまいます。ストレッチをしつつ、それなりの筋力も必要不可欠だと思いました」

五輪出場に向け、オブスタクルの競技力向上にも励んでいる(写真/r.photography)

一口に体が柔らかいと言っても、その詳細には可動性(外力が加わった時に体を伸ばせる範囲)と柔軟性(自らコントロールして動かせる範囲)がある。このふたつにズレがあるとコントロールできない可動域が生まれることになり、そこに負荷がかかるとケガにつながってしまう。そこで可動域をコントロールするのが筋力であることから、パフォーマンスの向上には筋力アップが欠かせないのだ。才藤さんは懸垂やボルダリングなど、ぶら下がり動作が発生するトレーニングを取り入れつつ、体幹などの筋力アップにも努めている。

筋力アップは前提として、複数種目に臨むにあたり彼女はストレッチを使い分けている。たとえばランと射撃によるレーザーランでは、肩まわりと股関節まわりの柔軟性を意識。股関節は広いストライドを確保するため柔らかいほうが良いが、足首はある程度硬さを保ったほうが地面の反発を受けやすい。逆に水泳では、足首は柔らかいほどが水をかきやすいため、水泳の前には足首のストレッチを入念に、ランの前には軽めにするなど調整している。

才藤さんの得意種目であり、競技単体の選手としても活躍しているフェンシングでは、踏み込み(アタック動作)のために股関節まわりやアキレス腱のストレッチを実施。接触でのケガ防止のため、肩やヒザまわりもケアしている。ただ、そこで筋肉を伸ばしすぎないことが重要なのだと言う。

「フェンシング(エペ)ではアタックが決まらなかった時、すぐに相手が反撃してくるので反応速度が大事です。大きく踏み込んだ後も筋肉が伸びきって反射が遅れてはダメで、筋力でしっかり体勢を立て直して次の展開に備える必要があります。自分の可動域がどのくらいかを把握してプレーしますが、練習では意識できても試合になると気持ちが焦って、可動域以上の踏み込みをして体勢が崩れることもあります。なるべく大きな可動域を確保できるように日頃からストレッチしつつ、筋力強化にも取り組んでいます」

ボディケア意識の向上は、今後の彼女のパフォーマンスにたしかなプラスになるだろう。近代五種を愛し、競技の普及にも尽力している彼女は、今後の取り組みについて力強く語った。

「オブスタクルスポーツが種目に加わり注目度が上がっている今が、近代五種の魅力を知ってもらういいタイミングなのではと思っています。競技者として成績を残したり、アスリートモデルとしてメディアに出演したりして、近代五種やフェンシングの魅力を多くの人に発信していきたいです」

今まで積み上げてきたものを結集し、才藤さんはさらなる高みを目指していく。

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