「もう地獄だよ」プロレスラーが恐れたブリッジ特訓 首を鍛える壮絶な理由




プロレス解説者の柴田惣一さんが取材したプロレスラーのアレ、コレ…様々なエピソードを紹介する連載「柴田惣一のよもやま話」。今回は「レスラーのこだわり」後編「首」にまつわるお話です。

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「狂虎」タイガー・ジェット・シンの首も太かった

レスラーのこだわりは多岐にわたるが、首の強化は即、命にかかわるとあって最も大切にされている。

受け身ももちろん大事だが、首がしっかりしていなければ、大ケガに直結する。体のマヒや命を落としかねないのだから、指導者たちも口を酸っぱくすることになる。

「鬼軍曹」山本小鉄は「猪首(いくび)になれ」と繰り返していた。レスラーにとって、猪の様に太くて短い首は勲章そのもの。たくましく見え、強さの象徴にもなる。

強靭な首は豪快な技の源にもなる。ジャーマン・スープレックスなどプロレスの華ともいえる大技は、ブリッジが基本中の基本。ブリッジを支えるのは、しっかりとした首である。

内藤哲也のジャーマン・スープレックス カカトがしっかり上がっている

ブリッジの練習後は「もう地獄だよ」とボヤく若手選手が多かった。3分、5分、10分、15分、20分…そのままの態勢で時間を徐々に伸ばしていく。

最初から長時間できる者は、ほとんどいなかった。徐々にうめき声が漏れてくる。先輩たちも様子を見ながら各選手の限界を見極め「よし、そこまで」と声をかけていた。

長い時間を耐え抜いても、すぐに立ち上がるのはご法度だった。「目が回る」とリング上で、しばらく大の字になって息を整えていた。それだけブリッジ練習はハードなトレーニングだった。

ブリッジ特訓には様々な方法がある。人を乗せてブリッジする姿を目にしたことがある人は多いはず。人間一人しかもレスラーの巨体の体重を浴びながらのブリッジは、簡単にはできない。正直、レスラーも全員ができたわけではないようだ。

一度、一体が100キロのダミー人形を三体乗せてブリッジしている光景を見かけたことがある。一体、一体、そしてまた一体。ぐっと力をこめて耐えている姿は神々しいほどだった。日ごろからレスラーの超人ぶりには驚かされていたが、この時ばかりは後にも先にも「大丈夫ですか」と、思わず口にしてしまった。

ブリッジにも段階がある。入門してまずは両手を使う。この頃はブリッジするだけで動けない。そして慣れて来ると両手を使わずにユラユラ体を揺らし最初はつむじの辺り、それからオデコで支える。それができたら鼻。そしてアゴである。段階を踏んで、半円に近くなっていき、見栄えも良くなる。さらにはカカトを上げての爪先立ちが良いとされた。

カール・ゴッチの指導を受ける猪木

猪木が得意にしていた。お手本を示しながら、若手選手に「お前たちもやれ」と喝を入れてる。みんな必死になって首の運動に取り組んでいたが、なかなかアゴまでいけるレスラーはいない。

ヤングライオンたちが「猪木さんは、すぐにつくからいいよな」と、こそこそささやきあっていた。モハメド・アリに「ペリカン野郎」と言われた、猪木の長いアゴが役に立っていたと言いたかったらしい。だが、アゴのおかげというよりも、猪木の首の丈夫さとしなやかな体のおかげだった。

初めは台形のような四角い形のブリッジが、虹の様な弧を描くブリッジになっていく。スープレックスを始めとするさまざまな投げ技の根本はブリッジであることは間違いない。

プロレスの神様カール・ゴッチが、娘婿であるミスター空中を伴って道場を訪れた際には「ジャーマン・スープレックスは投げたらオデコで支えるんだ。頭じゃない。だからブリッジは大事なのだ」と指導していた。

基礎練習に励むジャイアント馬場

練習生は、馬場・全日本プロレスでは受け身をトコトン仕込まれていた。猪木・新日本プロレスは受け身ももちろんだが、ブリッジ、首の強化にも力を入れていたようだった。

立派な猪首に仕上がると、別の苦労が待っていた。既製品のYシャツではどうにもならなくなる。ただでさえ胸板が厚くなり、ボタンが閉まらないのだが、襟首の辺りがどうにも格好悪い。

ネクタイを締めるなど、とうてい無理な話。特製のYシャツを仕立てることになり、もちろんスーツも特注。ネクタイも首回りに長さをとられ、短くなってしまう。

正装が様になるレスラーと、妙にバランスのおかしいレスラー。どちらがよりレスラーらしいのか、難しいところではある。(敬称略)