一発屋から何でも屋に ウエイトリフティング元五輪代表の再挑戦「オリンピックが終わってからどう人生を生きていくのか」




9月20日に開幕するクロスフィット日本一決定戦『JAPAN CHAMPIONSHIP』に向けて、注目のクロスフィッターを紹介する本企画。第3弾は、リオデジャネイロ五輪2016にウエイトリフティング日本代表として出場した松本潮霞(まつもと・なみか)さん。長年、一発の試技にすべてをかける世界で戦ってきた彼女は現役引退、会社員生活を経てクロスフィットと出会った。現在はコーチとして活動する一方、再びアスリートとして競技の舞台へ。ウエイトリフティングにも復帰し、二つの競技を“両輪”として歩み始めている。

オリンピアンという肩書きを背負って戦うのではなく、「一人の挑戦者」として新しいことに挑む――。その先に見据えるのは結果だけでなく、アスリートのセカンドキャリアというテーマでもある。

写真/本人提供

【写真】超パワーの肉体を躍動させる松本さん

――まず、これまでの競技歴を教えてください。

「中学、高校では陸上の投擲をやっていました。高校の途中から陸上部とウエイトリフティング部を兼部して、両方でインターハイを目指していたんです。でも、いつの間にかウエイトリフティングのほうが成績がよくなって(笑)。そのまま大学、社会人と競技を続けて、2016年のリオデジャネイロ五輪に出場しました。東京五輪には出場できず、2021年末に現役を引退し、その後は会社員をしていたのですが、退職したタイミングでクロスフィットと出会いました」

――クロスフィットを本格的に始めたきっかけは?

「BLACK SHIPS代々木で、ダイエット企画のお話をいただいたのがきっかけです。半年間、毎日のようにクラスに参加して『体がどう変わるか』という企画をやらせていただきました。そこからスタートし、今はコーチとして活動しながら、アスリートとしてももう一度競技をしています」

――ジャパンチャンピオンシップへの挑戦は今回が2回目となります。今年の予選前には足の骨折もありましたよね。

「手術をして、数か月練習できなかったので、もちろん影響がなかったとは言えません。でも、ケガのせいにはしたくないです。クロスフィットは“なんでも屋さん”にならないといけないスポーツで、ワークアウトによって求められるものが違います。今年のワークアウトに対して自分が強くなかった部分もあると思っています。もともと『エリートで出場して、表彰台に立つ』というのが目標でした。今回はRX部門ですが、与えられた場所で絶対にチャンスをつかもうと気持ちを切り替えています」

――本戦ではRX部門の優勝が目標ですね。

「はい。目標は優勝です!簡単ではないですけど、今はオリンピアンとして挑んでいるというより、一人の挑戦者として新しいことに挑戦している最中です。だから楽しもうと思っています」

写真/中障子重紀

――ウエイトリフティングとクロスフィットの違いはどういったところに感じますか?

「よく『ウエイトリフティングができるから、クロスフィットのバーベル種目は全部得意でしょう』と言われるんですけど、まったく別物です。ウエイトリフティングは“一発の美しさ”を極限まで高めていく競技。一方でクロスフィットは、長く動き続けるために効率のいい動きを見つけていく競技です。私自身も“一発屋”から“なんでも屋”にならなければいけなくなりました(笑)。でも、いろいろな動きを経験したことで、逆に体の使い方について新しい発見があり、それが今のウエイトリフティングにも活きていると思います」

――ウエイトリフティングの大会にもふたたび出場していますよね。

「はい!今年は全日本マスターズにも出場しますし、来年は世界マスターズにも挑戦したいと思っています。ウエイトリフティングとクロスフィットを両輪でやっていきたいですね」

――クロスフィットを始めて一番変わったことは何でしょうか?

「逆立ちで歩くなんて、普通だったらあえて挑戦しないですよね(笑)。新しいことに挑戦できること、そして失敗することが怖くなくなったことが大きいです。ウエイトリフティング選手として最後の頃は、『失敗してはいけない』『勝たなきゃいけない』という感覚が強くなっていました。でも今は、『失敗してもいいんだ』『挑戦してもいいんだ』と思える。それがクロスフィットをする上ですごく新鮮で、楽しいと思います」

――これから競技を通して伝えていきたいことは?

「オリンピックがゴールになってしまう選手は多いと思います。でも、私は『そこからだ』と思っています。オリンピックが終わってからどう人生を生きていくのか。これは今、日本のアスリートにとって大きな課題だと思っています。とくに女性アスリートのセカンドキャリアについて、自分の活動から何かひとつでも糸口が見つかればと思って、今は模索しています。登った山は、やっぱり丁寧に降りていかないとうまくいかないと思うんです。次の世代に希望を持ってウエイトリフティングを続けてほしい。そのためにも、私はクロスフィットをがんばります」