二度のがんから生還。病室で筋トレを続けた理由とは?【筋肉博士・石井直方 INTERVIEW】




ボトルに取った胆汁をコーラで割って飲む

――体に何本もボトルがついている、その時の写真も見せていただきました。

石井 退院する時は、胆汁を抜くチューブと、ボトルに取った胆汁を腸の中に戻すためのチューブ、計4本がまだ残っている状態でした。大きなウェストポーチの中にボトルがいっぱい入った状態で抱えながら家に帰る。それから手術する前などは、ボトルに取った胆汁を飲むんですよね。ろ過をして飲むんですけど、すごく苦いもんですから、コーラで割って飲んだりとか(笑)。

――飲むのが普通なのですか?

石井 飲むことを推奨していますね、東大病院では。本来、腸の中に落ちるべきものなので、飲んだほうがずっと予後がいいと言うか、体調もいいようです。

――技術でつくれないものをつくる人間の体はすごいですね。

石井 生きている上ではあまり自覚しないんですけど、細い管を通って腸に落ちていく状況がちゃんと維持されているわけですよね。それがわりと簡単に詰まっちゃうというのも、危ういもんだなと思いますよね。そのへんに関しては病気をして敏感になりましたね。すごく繊細なことを体はやっていて、それがなにかの弾みでちょっと動かなくなっただけで本当に命に関わる。そういう状況なわけですよね。

――予後はしばらく良好だったと聞いています。

石井 手術から1年ぐらいは予後がよくて、すごく元気だったわけですよね。ボウリングなんかも2週間に1回は必ず行くようになって。調子がいいのでなんの問題もないだろうと思っていたら、検診の時にちょっと血液検査が気になりますねと。それで3本の胆管をバイオプシー(生体材料検査)で調べたところ、1つからがん細胞が出て、再発でしょうということになったわけですね。少し手の届かないところに転移していた感じではありますよね。

――入院中は病室で筋トレを続けていたそうですね。

石井 そうですね。2010年頃に有名な研究があってですね。ネズミにがん組織を移植してがんにすると、どんどん進行して死に至るわけですけれども、がんを移植されたネズミはどんどん痩せていくんですよね。がんから体を消耗させると同時に筋肉を分解するような物質が出てきて、どんどん筋肉が減って痩せ細って衰弱をして死んでしまう。ところが、がんを移植した後で筋肉増強剤を打って筋肉を減らさないようにすると、なんと、がんを移植していないネズミと同じぐらい生きると。なので、がんによって命を落とすというのは、ひとつはがんそのものによる毒性はあるでしょうけれども、筋肉が落ちて体が衰弱した結果、衰弱が進んで死んでしまうという要素が非常に強いんじゃないかと考えられるようになってきたんですよね。

がんを移植したマウスの生存曲線

――がん細胞そのものが筋肉を分解してしまうのですか?

石井 「がん悪液質」(カヘキシア)と言うんですけど、物質そのものの実態はよくわかっていないんですよね。とにかく、がんにかかった人はどんどん筋肉が減って痩せていくという現象があって、これは物質的な基盤があるのではないかということで、がん悪液質という呼ばれ方をしています。どういった物質かというのはいろいろな考えがあるんですけど、炎症性のサイトカイン(生理活性蛋白質)、つまり体の中の炎症を引き起こす物質がすごく増えて、それが筋肉の分解を促してしまうと考えられてはいます。なので、全身が炎症のような状態になってきてしまう、あるいは、がんのところで非常に炎症が広がったような状況になる。それは僕も最初の悪性リンパ腫の時に実感していて。高熱が続きますのでね。全身炎症状態が何か月も続いたわけです。もう日に日に筋肉が落ちていくのがわかる感じでしたので。それを防ぐため、防ぎ切れないかもしれないですけど、筋肉を使うことでどこまで防げるか。そのへんも自分として興味がありましたので、無理のない範囲でやるようにしていました。

がん患者への運動療法