サムライたちもストレッチをやっていたんですか?




誰もがおそらくやったことであるであろう、ストレッチ。体を伸ばすこと……と、みんな理解はしているだろうが、実はもっと奥が深いもの。この連載企画では、そんなストレッチのエキスパートである長畑芳仁先生に、ストレッチの奥深さを話してもらう。第2回は、ストレッチの歴史について。

A.闘いの前には必ずストレッチをやっていたはずです。

ストレッチは大きく分けると「動的」「静的」の2つに分類できます。動きを伴いながら行うのが動的ストレッチ、ゆっくりと伸ばすのが静的ストレッチ

ストレッチと聞いて多くの人が連想するのは、静的ストレッチのほうです。これはボブ・アンダーソンという学者が1970年代に提唱し、普及させたものです。動的ストレッチに関しては、アンダーソンの静的ストレッチよりも前に、アーロン・マティスという学者が世に発表しています。

ただ、「動的」「静的」という名前はついていなかったものの、ストレッチ自体は大昔より存在していました。古代ローマの戦士や日本の侍たちも、闘いも前には必ずストレッチをやっていたはずです。体の可動性が悪ければ、命を落とす可能性もあります。生き残るためには、体の可動性を高めておく必要があったのです。

昔から存在していたものを学者が研究し、その過程で「動的」「静的」などの名前がつけられていったのでしょう。それが近年になって健康法としてもクローズアップされ、いろんなメディアで取り上げられるようになりました。

昔から行われているラジオ体操は、動的ストレッチに分類されます。ただ、「準備体操」と「ストレッチ」は、イコールの関係にはありません。準備体操は、文字通りスポーツなどの準備段階として行うものです。仕事中に背筋が凝って、背伸びをする。これは準備運動とはいえません。

ストレッチに特別な目的は必要ないのです。スポーツの前に行うこともあれば、生活のなかで無意識に行うことも、就寝前にベッドの上でやることもあります。スポーツをする前に行うものというイメージがありますが、そうとも限りません。

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そもそも、「運動」そのものがストレッチの要素を持っています。例えば「腕を曲げる」という動作では、力こぶの筋肉である上腕二頭筋は縮み、裏側にある上腕三頭筋は伸びています。人が動いているとき、表の筋肉が縮めば、裏の筋肉は伸びるようになっているのです。「動的」「静的」という分類や名前にこだわって、難しく考える必要はありません。ストレッチとは、すごくシンプルなものなのです。

※本記事は、2017年に公開した記事に加筆・修正を加えたものとなります

写真/長谷川拓司

長畑芳仁(ながはた・よしひと)
1960年、大阪府出身。 特定非営利活動法人日本ストレッチング協会理事長。日本体育協会認定アスレティックトレーナー。 帝京大学講師。早稲田大学教育学部卒業、順天堂大学大学院体力学専攻修了。 2001年「すとれっち塾戸田公園店」開設。専門分野はアスレティックトレーニング、スポーツ科学、アスレティックリハビリテーション。リコーラグビー部など、多数の社会人・大学チームのストレングスコーチ、および日本代表ボートチームのフィジカルサポートなどを務める。「ストレッチまるわかり大事典」(ベースボール・マガジン社)「アクティブBODYストレッチ」(日東書院)など著書多数。
日本ストレッチング協会HP