立命館大学・家光素行教授に教えていただく最新ストレッチ情報。第2回は動脈硬化との関連について詳しく聞きます。
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――前回、「ストレッチが動脈硬化の予防になる」というお話を伺いました。
「最近の研究でわかってきたことです。そもそも動脈硬化とは、動脈の血管が硬くなって弾力性が失われた状態のことです。血管は通常であれば弾力がありしなやかですが、加齢や高血圧、糖尿病といった因子、喫煙、運動不足などの生活習慣によって血管壁が厚く硬くなってしまいます。この血管が硬くなることと、体が硬くなることの仕組みはよく似ているんです」
――と言いますと?
「体が硬くなるというのは、つまり筋肉が硬くなることです。筋肉は筋線維という細長い細胞が無数に束になって構成されていて、筋線維の中にはさらに細い筋原線維という構造が束になって詰まっています。加齢で筋線維が退化し、硬い組織に置き換えられてしまうこと(線維化)が柔軟性低下の要因の1つです。
動作を司る『骨格筋』に対し、血管は『平滑筋』という筋肉に覆われています。健全な状態なら平滑筋は血流に応じてゴムのように伸び縮みしてくれますが、線維化することで硬くなるとその機能が低下し、結果として血管が硬くなってしまいます。輪ゴムを想像するとわかりやすいでしょう。柔らかい輪ゴムはよく伸びますが、硬くなった状態だと伸びません。これと同じ現象が血管でも起こるのです」
――筋肉にせよ、血管にせよ、硬くなるのは良くないということですね。
「そうです。動脈硬化を予防・改善するには、硬くなってしまった血管を柔らかくし、血管が広がりやすい状況にする必要があります。血管の内側には内皮細胞というものがありますが、そこに刺激を与えると血管拡張物質(一酸化窒素)が産生されて血管は広がりやすくなります。血液は内皮細胞に擦れるようにして流れるので、通常、その物理的な刺激で内皮細胞から血管拡張物質が産生されます。しかし、血流が少ないと血管拡張物質がわずかな量しか産生されません。そこでストレッチを行なうと血流が増えるので、より強く内皮細胞を刺激して多くの血管拡張物質を産生させることができ、その結果として血管が柔らかくなるというわけです」
――なるほど、血流量がポイントなんですね。
「この効果はストレッチに限らず、ウォーキングやランニングなどの運動でも得ることができます。むしろそれらの運動のほうが効果は高いでしょう。ただ、ストレッチは基本的に運動強度が低いため、誰でも手軽に安全に行なえます。中高年の方や仕事が忙しい方でも取り組みやすいというメリットがあるので、運動習慣のない方には私はストレッチも推奨しています」
――取り組みやすさは重要ですね。
「私たちのチームが行なった研究として、ストレッチ前・ストレッチ中・ストレッチ後の血流量を調べた実験があります。その結果、ストレッチ前とストレッチ中では血流に大きな差は見られませんでしたが、ストレッチ後に血流が増加することがわかりました。血流が増えていたのは、ストレッチした周辺の血管でした。ストレッチを休息なしで行なっても血流が増えるわけではなく、ストレッチ後に少しリラックスしないと血流は増えていかないようです」
――ストレッチ後が重要なんですね。
「ちなみに、ストレッチを行なうと血管そのものが伸びて柔軟になるのでは?と思う方もいらっしゃるかもしれません。これについてはまだ研究では証明できていませんが、血管自体を伸ばすというのも血管拡張物質を出す上で有効な刺激になる可能性はあるかと思います」
――今後、新たな情報が提示される可能性もあるわけですね。
「はい。ただ、動脈硬化は睡眠不足やストレス過多といった日常生活の影響もありますし、大きな要素として食事も挙げられます。食事に関してはバランスも重要ですが、血管拡張物質の一酸化窒素を産生させる材料として『シトルリン』というアミノ酸を含む食材を摂ることも有効です。生活習慣や食事の改善とストレッチなどの運動を組み合わせることが重要だと思います」
(次回は動脈硬化を予防するためのストレッチメニューを紹介します)
家光素行(いえみつ・もとゆき)
立命館大学スポーツ健康科学部スポーツ健康科学科教授。2003 年、筑波大学大学院医学研究科修了(博士:医学)。2004年、筑波大学大学院 人間総合科学研究科助手国立健康・栄養研究所客員研究員などを経て、2014年より現職。日本体力医学会監事、日本運動生理学会評議員などを務め、心血管疾患、糖尿病、肥満などにおける運動療法と運動効果の機序解明について多くの論文を報告している。
◆本記事は日本ストレッチング協会 協会誌「CREATIVE STRETCHING Vol.65」で紹介された内容を再編集したものです。
取材・構成/森本雄大