もう1レップを生み出す筋肉体操の魔法の言葉 痛快なフレーズに込められた意味とは




谷本道哉教授監修の下、「筋肉体操」の2026年版が順天堂大学のYouTubeチャンネルで公開された。家でもどこでもできる種目であること、レベルダウンを示して誰一人取り残さないこと……その信念はこれまでとは変わらない。だが、“楽しく筋トレ”という面では、よりいっそう魅力的になった印象だ。

【動画】順天堂大学 谷本道哉の筋肉体操3種目 

――筋肉体操といえば、「キツくてもツラくない!キツくても楽しい!」「胸がつかない腕立て伏せは、腕立伏せかけ。浅いスクワットは、浅はかなスクワット」など、その語録が書籍化されたほど、痛快でキャッチーなフレーズが溢れています。私自身も実際にやってみましたが、筋トレしながらニヤっとしてしまいます。
「それはすごく嬉しいですね。筋トレの頑張りは、ツラい思いをして行う必要は全くないわけですよ。その感覚は筋トレに限った話ではありません。ここ10年ぐらいのスポーツ界でも変わってきたのでは。例えば、野球の大谷翔平選手は試合中によく笑顔を見せますし、オリンピックなどでも歯を見せて笑う選手がけっこういますよね。ひと昔前に練習中に笑っていようものなら、『けしからん!』とコーチに怒鳴られていましたが(笑)。でも、笑ってるからといってふざけていたり、手を抜いていたりするわけじゃない。笑って楽しめているからこそ、より本気が出せて力を発揮できたりするもの。筋トレも同じで、めちゃくちゃキツくて、目いっぱいできているときのほうが、むしろ笑みがこぼれてきたりしませんか?」

――確かに、笑っちゃうくらいキツいときはあります。ただ、実はそれが楽しくて、笑うことでよりパワーを発揮してあと1レップできたりします。
「本気の本気を出せると、人は笑っちゃうんですよ。運動だけではなく、勉強でもそう。数学の難問に出くわすとニヤッと笑っちゃう。とんでもなく複雑な図形が出てきた瞬間に、数学が好きな子は笑みがこぼれる。ワクワク、みたいな感情なのではないかな。喜々として解き始め、解けたときは最高の笑顔に!」

――今回の筋肉体操のプラスアルファ種目は、まさにそのイメージです。
「真剣に取り組めば取り組むほど、明るく楽しい気持ちになれるはず。いつも以上に楽しそう!と思ってもらえたなら嬉しいですね」

――2018年に公開した筋肉体操からの変化という点では、先生自身がやりながら声を掛けているところもありますね。
「演者の方に筋トレをやってもらいながら、外から『キツくても、ツラくない!』と声を掛けているのは、実は不本意に感じていたんです。例えば炎天下で野球の練習をしているときに、日陰にいる監督とかコーチに『しっかりやれ!』とか言われても、『うるせーな!』って選手は思うじゃないですか。でも、一緒にグラウンドで汗をかいて同じメニューをやりながらの声掛けなら、『俺もやらなきゃ』『もっとやろう』という気持ちになれると思うんです。なので、NHKの『おはよう日本』のコーナー内で筋肉体操をやらせていただくことになったときには、僕自身もやりながら声掛けする形にさせてほしいとお願いしてこの形になりました」

――理想的な形になったわけですね。
「筋トレに限らず、他のスポーツ指導においても通じる考え方ではないかと思います。もちろん、客観的・俯瞰的に見ながら声を掛けて指導するほうが良い場面はあるので、全てにおいてこのやり方が正解とは言えません。ただ、僕としては、『命じるよりは“Let’s”』というあり方はこだわりたいですね」

――一種のメンタルトレーニングのようにも感じます。
「1人で黙々とやっていると10レップしかできなくても、声掛けがあると12レップできたりします。全力の筋力発揮を繰り返す際に、叫び声をあげると、電気刺激を加えたときのように発揮筋力が増すという研究があります。声掛けにも似たような効果がありそうです。そして、筋トレで力を振り絞れることが、メンタルを強くするというのもあると思います。成功体験というだけでなく、しっかり追い込む筋トレは、アドレナリンや乳酸、神経栄養因子などの分泌や脳血流の増加など、脳機能に生理学的に作用します。前向きな気持ちでフィジカルを強くすることで、メンタルも強くなり、気持ちにも余裕ができる。筋肉体操で、『カラダ元気に、ココロ豊かに』なっていただきたいですね(笑)」



(続く)

【プロフィール】
谷本道哉(たにもと・みちや)
1972年、静岡県出身。大阪大学工学部卒業、㈱パシフィックコンサルタンツ勤務を経て東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。順天堂大学スポーツ健康科学部教授(筋生理学、トレーニング科学)。『筋トレまるわかり大事典』(ベースボール・マガジン社)、『スポーツ科学の教科書』(岩波ジュニア新書)など著書は多数。NHK「みんなで筋肉体操」「筋肉アワー」「ニュースーン」、テレビ朝日「モーニングショー」などで運動の効果をわかりやすく解説する講師としても活躍。座右の銘は「人は変われる」

インタビュー/木村雄大