プロレス解説者の柴田惣一さんが、実体験をもとに数々のエピソードを紹介していく連載「柴田惣一のよもやま話」。今回は、デスマッチ戦士たちの逸話の数々をお届けする。
デスマッチを全面に押し出している団体が大日本プロレスだ。通常ルールでの試合形式であるBJW認定世界ストロングヘビー級王座と並んで、BJW認定デスマッチヘビー級王座が 2大看板となっている。
ストロング部門とデスマッチ部門があり、いずれかに専念する選手もいれば、両部門で活躍する選手もいる。
大日本の生え抜き一期生であり、大日本にとどまらず日本マット界そして世界プロレス界のデスマッチで名を馳せているのがアブドーラ・小林である。

スキンヘッドに袴姿…いかにもプロレスラーの全身は傷だらけ。体中に刻み込まれた歴戦の証しは、神々しいばかり。キャリア31年の強者は「THE鉄人」の異名が、まさにぴったりとくる。
蛍光灯、ガラスボード、画鋲、鉄オリ、イスの山…流血必死の凶器に突進していく。そこには一片の躊躇もない。「憧れの存在」という「黒い呪術師」アブドーラ・ザ・ブッチャーにも負けないド迫力だ。
リング上の流血をもろともしない勇姿とは裏腹に、素顔は笑いを絶やさず前向き。ギザギザな傷跡をなでながら、何事も笑い飛ばしてしまう。
「プロレスラーは人間性をさらけ出してナンボ」と明言する。SNSでもインタビューでも「ツライ」は禁句。口にしたり書き込んでしまうと「誰よりも自分自身が疲れてしまう」と、笑い飛ばしたものの、実は裏アカウントでは「もうダメ」と泣き言も…。
とはいえ、とにかく正直そのもので明るく、愛嬌があることからファンの支持率は高い。
結婚するファンから婚姻届けを差し出された。流血戦に勝利した後で証人をお願いされたが「血判で」とズバリ。なにぶん初めてのことで驚いたが「小林さんが勝ったら結婚しようと思っていた」と訴えられ、快く了承。ファンにとっては生涯忘れ得ぬ思い出となったことだろう。
ブッチャーは色紙を持ったファンに流血した額を狙われて魚拓ならぬ「血拓」を取られていたが、小林は「正面から堂々と血判を要求されました」とにっこり。
海外の試合やファンイベントに招へいされることも多い。「言葉は通じなくともデスマッチは世界共通だ」と胸を張る。

ある時、海外では入手が困難だろうと、デスマッチに使用する剣山を大量に持ち込んだ。当たり前だが、入国審査で「これは何だ? 何に使う? なぜ、こんなにたくさん必要なんだ?」と質問攻め。当然のごとく別室に連行されての不審者扱いだ。
「デスマッチで使う」と、言ってみたものの理解されない。そこで「私はフラワーアレンジメント(生け花)ティーチャー」と説明。何とか事なきを得ている。
思わぬ苦労が絶えないデスマッチ戦士だが、見た目の派手さと苦痛は必ずしも比例しないという。派手な破裂音とともに飛び散る蛍光灯やガラスボードなどは、鮮血が吹き上がり、肉体は切り刻まれ、破片は体に入り込むとあって、痛みはかなりのモノ。
リング上ではアドレナリンが出ているので平気だが、リングを下りればかなりしみるらしく悲鳴をあげながらシャワーを浴びるという。そして翌朝、布団の上に体内から出た破片がキラキラ輝いていることもあるとか。
「でも、実は塩とかが、地味にキツイのよ」と告白する。傷口に塩を塗り込められると鈍く激しい痛感に加え、血管に直に摂取するためか、血圧が上昇してしまう。さらに体液が出てしまい「なんかフラフラしてきて、慌てたことがある」と明かしている。「塩をかけられたナメクジがどうなるか…」と、何ともいえない例えをしていた。
他にもマスタードは肌荒れがひどく「あまりやりたくない」と珍しく泣き言が飛び出したが、デスマッチは小林の人生そのもの。「楽しんでいる」という顔は充実感に満ち満ちている。

「デスマッチのカリスマ」葛西純も血だるまになりながら、世界中のデスマッチファイターやファンからリスペクトを集めている。「闘いを終え、無事に家に戻るまでがデスマッチ」とは、けだし名言。息子の葛西陽向もプロレスラーとしてデビューしたが、デスマッチ戦士も良き夫であり良き父でもある。
「クレイジーキッド」竹田誠志は義理を通す漢。デスマッチ後の飲み会に、背中がえぐれる大けがを負ったのに、病院に行く前に顔を出してくれた。今ではイクメンとして知られている。夫人が若くして亡くなり、残された小さな娘をシングルファーザーとして立派に育てている「子連れ狼」である。

デスマッチ戦士はリング上のファイトからは考えられない優しく穏やかな好人物が多い。流血を惜しまない紳士たちに喝采を。
