プロレス解説者の柴田惣一さんが取材した「プロレスのアレコレ」を紹介する「柴田惣一のよもやま話」。今回は「歯」です。「歯が命」なのは芸能人だけではありません。

「歯が命」なのは芸能人だけではない。貴方も歯をぐっと噛みしめる時があるはず。集中力を高める、力を込める……中でもスポーツ選手はその機会が多い。
「世界のホームラン王」王貞治の歯がボロボロになってしまったのは、よく知られている。ホームランの世界記録は、インパクトの衝撃を歯が支えたからこそ成し遂げられた快挙である。
レスラーにとっても丈夫な歯は欠かせない。「世界八番目の不思議」「大巨人」アンドレ・ザ・ジャイアントも歯をとても大切にしていた。
223センチ、270キロの超巨体からは想像もつかないスピードを誇り、器用さもテクニックも超一流だったアンドレ。すべてが規格外だったが、何と歯が42本あったと言われている。
普通は28本だから、14本も多かった。口やアゴの大きさも体に比例していたとはいえ、驚異そのもの。しかも虫歯もなく、すべてが健康な歯だったというから何とも素晴らしい。控室で大きな体を小さくして歯を熱心にシャカシャカ磨く姿が目撃されている。
レスラーは他の競技のアスリート同様、歯をグッと食いしばる。いや、試合中に何度も何度もぐっと力を込める。技の繰り出しにも、受け身を取るにも歯が活躍している。会場を熱狂させるファイトを支えているのだ。
大巨人に限らず一流レスラーは口、歯のケアに熱心だった。猪木もデンタルフロスを使って歯磨きの仕上げをし、舌の掃除にも気を使っていた。華麗な人脈には歯科医師もいた。いろいろと助言を受けていたようだ。
グッと噛みしめるだけではなく、歯がしっかりしていないと、食事も楽しめない。消化吸収が悪くなり内臓も弱ってしまう。人の何倍も食べるレスラーだけに、食べたいものを食べたいだけ食べられる丈夫な歯は必要不可欠だろう。

今ではマウスピースを使用するレスラーもいるが、かつてはマウスピースといえばボクサーだった。昭和の時代には「バカ野郎、ボクサーのマネなんてするな」と指導するコーチもいたものだ。
気が付けば、自分の歯がすべて揃っているレスラーはごく稀だった。ファイト中に歯が折れたり、吹っ飛んだりしていた。試合後にリングに残る小さな破片。よく見ると歯であり、外れてしまった入れ歯だったりした。レフェリーやセコンドが何事もなかったかのように回収し、持ち主に戻されていた。
ただし、もはや使い物にならないことが大半で「また、歯医者さん、予約しなきゃ」というボヤキもよく聞いた。折れたり取れたりした歯をうっかり飲み込んでしまったという話も多い。
試合後のファンサービスに歯が欠けたまま、登場する場合もあった。ニコッと笑ったレスラーの歯がなくて、驚いた思い出を持つファンのいることだろう。
全日本プロレス・四天王の一角を占めた川田利明も前歯はなく、普段は入れ歯をし、ファイトでは外していた。試合中は口を堅く結んでいるが、ちょっとした拍子に、前歯のない口元が露わになった。驚いたリングサイドのファンがそれこそ口をあんぐりさせてしまうこともしばしばだった。
レスラーもマウスピースを使用するのが定番化しつつある。試合時だけでなくトレーニング中はもちろん、歯の矯正にも役立つそうで日常生活でも使っている者もいる。
サーキット先の食事店で、食べる間ティシュに包んで置いていたところ、店員さんに片づけられてしまったこともあるそうだ。
「芸能人は歯が命」とは1995年に放送された歯磨き粉「アパガード」のCMで大ヒットしたフレーズだが、レスラーも人気商売。白く清潔で美しい見かけ以上に、ファイトでも丈夫な歯が必要だ。「レスラーも歯が命」なのだ。(敬称略)
