スポーツ深読みシリーズ~馬術競技【佐久間編集長コラム「週刊VITUP!」第59回】




VITUP!読者の皆様、こんにちは。日曜日のひととき、いかがお過ごしでしょうか? 東京2020オリンピック・パラリンピックまで500日を切りました。というわけで、「スポーツ深読みシリーズ」の第二弾をお届けしましょう。

今回紹介するのは馬術競技です。学校体育では触れることのないスポーツであり、多くの方は馴染みがないかと思います。まずは簡単に競技の説明をしていきましょう。

馬術競技はオリンピックでは「馬場馬術」、「障害馬術」、「総合馬術」の3種目が実施されています。馬場馬術は演技の美しさを競うもので、障害馬術はコースに設置された様々な障害物をミスなく早く走行するもの。この馬場馬術と障害馬術にクロスカントリー走行を加えた種目が総合馬術になります。

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他の競技と大きく違う特徴といえば、人馬一体となって行なうということ。そして、男子、女子という区分がなく、オリンピックで唯一、男女が同じステージで競うのがこの馬術競技です。人間と馬が力を合わせて行なう種目ということもあり、選手寿命が他の競技よりも圧倒的に長いのもこの競技ならでは。日本では1964年の東京オリンピックに出場した法華津寛(ほけつ・ひろし)選手が2012年のロンドンオリンピックに71歳で出場。2020年大会では2度目の東京オリンピックを目指しています。

人間の年齢には制限がない一方で、オリンピックや世界選手権クラスの大会に出場する馬には年齢に制限があります。障害馬術は9歳以上、馬場馬術と総合馬術は8歳以上の馬でなければ出場できません。競馬のクラシックレースは3歳で、競走馬のピークは4~5歳、だいたい6歳くらいで引退します。そう考えると、馬術競技に出場する馬の年齢が高いことがわかります。

馬術競技は単純にスピードを競う競馬とは違い、特殊な動きや演技が求められるため、“大人の馬”にならないとこなすことができないのです。8歳以上から出場可能とは言っても、実際に8歳でオリンピックに出場するケースはほとんどありません。オリンピックや世界選手権は、技術や体が成熟してきた10歳以上の馬が大半です。ちなみに人間の年齢に置き換えると、馬の8歳は人間の30歳くらいで、10歳なら35歳くらい。いろいろな仕事を覚えて「さあこれから」というサラリーマンのイメージに近いのかもしれませんね。

さて、もう一つ馬術競技の面白い特徴を紹介しましょう。実は馬術競技に出場する馬にはパスポートがあります。このパスポートは人間と同じように入国に必要なもの……ではありません。馬の名前やオーナーの情報、血統、予防接種の記録などが記載され、マイクロチップが入っている馬は、そのナンバーも記載されています。大会にエントリーしている馬が、この馬で間違っていないかを確認するために、国際競技大会に出場する馬は、国際馬術連盟発行のパスポートが必要なのです。

馬用のパスポート

ボールやラケットなど、道具を使う種目は数多く存在しますが、生きている馬と一緒に行なうというのが馬術競技の何よりの魅力でしょう。前述したようにオリンピックに出ている馬たちが、中間管理職のサラリーマンと同じくらいの年齢だと思うと親近感も湧くかもしれません。人だけでなく、馬にも注目してみると、馬術競技はより楽しむことができると思います。

佐久間一彦(さくま・かずひこ)
1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアンの取材を手がける。