聞き手/VITUP!編集部
藤本 皆さんの目指しているものという話題になりましたが、清水さんはコンテストで優勝経験もありますが当初からコンテストを目指していたわけではなかったのですか?
清水 全く考えていませんでしたね。ボディビルなどのコンテストに出る人たちは別物だと思っていました。「ボディビルに出る人たちはボディビル用のトレーニングをしているのであって、自分のやっているトレーニングとは違う」と。
藤本 私も今はコンテストに出ていますが、それは最近になってからで、それまではトレーニング歴は長かったですが、コンテストには全く興味なかったです。
木村 ほとんどの人がそうではないですか? 最初からコンテストに出ようと思ってトレーニングを始める人のほうが珍しいと思いますけど。
藤本 ところが、女性の「フィットネスビキニ」に出ている人たちは、安井友梨さんみたいになりたいと思ってトレーニングを始めたという人が多い。”トレーニング=コンテストに出る”になっている人たちが結構高い比率でいるんですよ。(フィットネスビキニの詳細はこちらの記事を参照)
木村 そうなんですね。僕らの世代は「ウエイトトレーニングで付けた筋肉はニセ物だ」的なことを言う人たちに指導を受けているから、ボディビル的なものに対する偏見の影響が残っているのかもしれないですね。
清水 確かに昔は言われましたね。最近は、そういうことを言う人も少なくなってきましたが。
木村 年配の柔道の先生なんかはたいてい否定的でしたよね。
藤本 ウエイトトレーニングは近年になって入ってきたものですから、年配の先生たちは経験もないし、教えることができないからというのもありそうですね。
清水 もちろん競技には技術や精神力も大事ですが、同じように筋力や心肺機能も大切で、それらがバランス良く備わっている必要があると思いますが、ちょっと前までは筋力の部分が軽んじられていたように感じますね。本格的にトレーニングを始めたのは空手を辞めてからでしたが、今になって「これをもっと前からやっていれば強くなれたのにな」と思うことが多いです。振り返ってみると、強い選手は当時からウエイトトレーニングや体を大きくすることに取り組んでいましたから。
木村 格闘技に限らず、スポーツ界全体で見ても日本はフィジカルトレーニングに対する取り組みが遅いと感じます。ラグビーでも今ではストレングスコーチという存在が当然となってきて引く手あまたの状態ですが、それもジャパンでエディ・ジョーンズ監督がフィジカルを重視したからであって、それまでは各チームともそこまで重視していませんでした。サッカーも口では皆「フィジカルが重要」と言いますが、その割には各チームの体制作りは進んでいるとはいえないですからね。
藤本 そうなのですね。意外です。
清水 クリスクリスティアーノ・ロナウドのトレーニングなんかを見るとスゴいですけどね。完全にボディビルダーのトレーニングと肉体だと思いました。あそこまでやっているから、フィジカルが強いのだと納得しました。
木村 筋肉が機能面で注目されるのはわかるのですが、一方で私は三島由紀夫の書いている「純粋筋肉」という考え方にも注目していて、今日はその本も持ってきてみました。『鏡子の家』という作品なのですが、この75Pから87Pに、三島の考え方がよく現れています。まず「一般のスポーツには、もはや明日の文明に寄与するようなものは何一つない」と切って捨て、「何の役にも立つべきではない訓練が必要であり、筋肉は筋肉それ自体を目的として鍛えられねばならない」と書いています。つまり何かのスポーツに役立つから筋肉を鍛えるのではなく、筋肉はそれ自体を目的として鍛えなければいけないと。極端な考え方かもしれませんが、個人的には理解できる部分があります。
(つづく)
木村卓二(きむら たくじ)
本業はTVディレクター。コーチ経験も有するラグビーを中心に、格闘技やサッカーなど、各種競技の中継に携わる。また、複数の言語に通じ、ラグビー日本代表スクラムコーチの通訳(フランス語)、FIFA W杯ブロードキャストリエゾンオフィサーなども歴任。ラグビー日本代表や世界各国のS&C(Strength & Conditioning)コーチたちに感銘を受け、自らも究極のトレーニングを求める研究を開始。NESTA(全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会)認定パーソナルフィットネストレーナーの資格を所持する。(写真左端)
清水康志(しみず やすし)
日本ボディビル・フィットネス連盟2級指導員。2012年に出場したボディコンテストをきっかけに、トレーナーとして活動開始。30歳を過ぎてから本格的なトレーニングに取り組んだ自身の体験をもとに、「トレーニングを始めるのに遅すぎるということはない」「安全に正しく取り組めば必ずよい結果が出せる」をモットーに幅広く活動中。