最速でデカくなる。それだけをこの1年は考えていた【横川尚隆インタビュー~王者が見据えるその先は?~#1】




2019日本ボディビル選手権で優勝し、新王者となった横川尚隆。11月の世界選手権でも4位入賞を果たした彼だが、2020年は大会不出場を宣言済み。果たしてその真意とは、そして彼が見据えるものとは?全5回に分けて掲載する今インタビューの1回目となる今回は、この1年を振り返ってもらった。

最速での優勝を目指し“死にそう”なトレーニングの日々

――2019年のシーズン、お疲れ様でした。今年は念願の日本選手権優勝と大きな目標を達成した1年になりました。
ありがとうございます。

――去年は鈴木雅選手の前に準優勝でしたが、その位置まできた喜びよりも、悔しさのほうが大きかったですか?
その通りですね。もう“負けた”という気持ちしかありませんでした。「おめでとう」という言葉をたくさん掛けていただきましたが、2位という結果に“嬉しい”という気持ちはまったくありませんでした。自分より上がいるのが気に食わないというか……。自分の好きなことで絶対に負けたくない、なのに2位。ただその気持ちだけです。

――その結果を受けて、この1年は想像を絶するトレーニングをしてきたと他誌でも語っていました。
そうですね、見ていた人はたぶんかなり心配していたと思いますよ。もう顔が爆発しそうになっているって感じです(笑)。本気でぶっ倒れそうになりましたし。1回とか2回しかできないような重さでやって、そこからさらに武井(郁耶・トレーナー)さんに補助してもらいながら5、6回やったりするので。“死にそう”ってよくみんな言いますけど、これが本当の“死にそう”でしたよ。毎セットそんな感じで、一部位50セットくらいやるので、まぁヤバイですよね。だから、誰よりもやったっていう自信しかない。これ以上できる人はいないって俺は思っています。

――そこまでできるのは、やはり武井トレーナーがいたからこそ。
そうですね。補助の仕方もすごく上手なので、武井さんとしかできないトレーニングだと思います。

――ものすごく強い信頼関係があるんですね。
武井さんとは、いろいろアドバイスをもらっていく中でご飯にいったり、遊びにいったりして仲良くなっていきました。とにかく一緒にいて楽しいんですよ。自分の思っていることを全部言えて、素で話せて。気を使うこともないのは武井さんだけです。やっぱりこの業界で人と話すときは、なるべく良く映るように気を使いますけど、武井さんにはそれがないんです。友達といられるような感覚で一緒にいられる。もちろん、体に関する知識がすごいというのはありますが、誰よりも信頼しています。

――トレーナー・トレーニー以上の関係のように思いますが、それだけ仲も良くなってしまうとどこかで慣れ合いというか、甘えみたいなのは出てきませんか?
全くないです。武井さんには「今年は絶対に優勝するから、限界までやってくれ」という話をしていました。もし壊れたら壊れた、俺はそれでもいいのでとにかく最速でデカくなる方法でやってくれるように頼んでやってきました。

――壊れたら、というのはケガをしてしまったらしょうがないと。
そうですね。普通の人では考えられないような相当な負荷でやっていたので、必ずどこかがおかしくなるだろうなとは思っていました。もしトレーニングができなくなったら、もうそれでもいいという覚悟だったので。実際のところケガはけっこうしていて、痛み止めを飲みながらやっていましたし。とにかくデカくするっていう意識でした。

――そこまで「最速」を求めたのは何か理由があったんですか?
……せっかちだから?かな。待てなかった、というだけです。

――2019年大会は、9連覇中の鈴木雅選手の欠場という大きなトピックがありました。去年の時点では、「次は雅さんを倒したい」と意識していたように思いますが、今年の大会へ臨むにあたり影響はありましたか?
まったく気にしていなかったです。もちろん以前は「雅さんを倒すため」とか「もう一度戦いたい」という思いもありましたが、それは去年負けた相手だったからです。“負けた相手には絶対に仕返しする”と思っていただけなので、日本一の座を手に入れた今は、「機会があったら」という感じ。相手が誰というのは気にしないですし、「1位でいたい」「圧倒的な存在でありたい」という思いだけです。他人のことを考えるなら、自分のトレーニングのことを考えます。

――大会当日に他の選手の体を見ても、その気持ちは変わりませんか。
もともとファンだった選手がいるので、なんというか客観的に「今日は調子良さそうだなぁ、すごいなぁ」と思うことはありましたが、それはあくまでいちファンとして。他の選手を見ても、正直、俺の順位が変わるとは思いませんでした。

――それはつまり、やる前から勝てる自信があった?
これまでずっとそうですけど、優勝したときの自分の姿が具体的に想像できればできるほど、確実に勝ってきたんです。逆に、あんまりうまく想像できていないときは勝てなかった。だから今年の大会は、はっきりと自分の頭の中に優勝している姿があったので、正直、やる前から優勝できると思っていました。

★次回は、11月に出場した世界大会のことを伺っていきます。

横川尚隆(よこかわ・なおたか)
1994年7月生まれ。東京都出身。身長170cm。2015年に本格的にトレーニングを開始し、オールジャパンメンズフィジーク選手権172cm以下級で優勝。その後、ボディビルに転向し、2019年の日本選手権で優勝。最近では『アウト×デラックス』『ホンマでっか!?TV』(ともにフジテレビ系列)など、バラエティ番組などにも出演している。
【主な大会実績】
・2014年 ベストフィジークジャパン ミスターベストフィジーク2位
・2015年 オールジャパンメンズフィジーク172cm以下級優勝
・2016年 JBBF 日本ジュニアボディビル選手権優勝、IFBB 世界ジュニアボディビル選手権2位
・2017年 JBBF 日本クラス別ボディビル選手権80㎏以下級優勝、JBBF 東京ボディビル選手権優勝、JBBF 日本ボディビル選手権6位
・2018年 JBBF 日本ボディビル選手権2位
・2019年 JBBF 日本ボディビル選手権優勝、IFBB 世界ボディビル選手権4位

インタビュー/木村雄大、ちびめが 写真/矢野寿明

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