新型コロナウイルス感染拡大の影響でリモートワークや自宅待機が増える中、気になるのは運動不足や先行きの不安などによるストレスだろう。誰もが経験したことのない未曽有の事態だけに、光を見つけることは簡単ではない。こんな時こそ、日本には武道がある。フルコンタクト空手の老舗・新極真会では、インターネットを活用した様々な稽古方法を発信している。とくに今年3月、東京都練馬区に道場をオープンしたばかりの世界チャンピオン・島本雄二道場長は、コロナ騒動の渦中で特別な思いをもって武道の魅力を映像で配信し続けている。
――今年3月に都内の練馬区・江古田へ道場をオープンされましたが、いきなり新型コロナウイルスの影響を大きく受けることになったのではないですか?
島本:そうですね。ちょうど感染が拡大する直前でオープンしましたが、やはりキャンセルや見合わせも多く、少人数での苦しいスタートになりました。緊急事態宣言が発令されてからは1ヵ月間の休講を決めて、月謝をいただかないことで対応をさせていただいています。
――同じ時期に開業した事業者は、みんな同じように苦しい境遇なのだと思います。
島本:今年に入って広島から東京に家族と出てきて、いきなりの非常事態となり最初は不安でしたが、こればかりは自分一人の力ではどうにもならない問題ですので、今はやるべきことをやるしかないと気持ちを切り替えることにしました。ネットを利用した稽古も、自分ができることのひとつです。
――ネット配信の稽古を拝見しましたが、基本の動きから実戦で使える組手のテクニックとバリエーションが多く、とても丁寧でわかりやすいと評判です。
島本:ありがとうございます。この分野は、もともと興味がありましたので、うまくタイミングが合った感じです。幸か不幸か時間はありますので、じっくり作り込むことができます。初心者や壮年部に向けた内容にしようと思っていましたので、それが良かったようです。空手に触れたことがない人や運動不足の方でもできますので、ぜひ利用してほしいですね。
▼基本稽古その1
▼チャンピオンテクニック【前手の突き】
――映像を使った稽古のメリットは、どんなことがありますか?
島本:やはり広く空手を知っていただける機会になると思っています。一緒に動いてみれば、体験入門ができます。空手ってどんな感じなんだろう、新極真会はどんな組織なんだろう、島本雄二はどんな人物なのだろう、と知っていただくキッカケになってほしいです。そこで興味を持っていただいた方、もっと稽古をしたい方は道場に来ていただければ、丁寧に指導させていただきます。お住まいが遠い方は、全国に新極真会の道場がありますので、ネットで検索してみてください。必ず、近くに道場があるはずです。
――島本道場長は、落ち込んでいる印象はまったくないですね。
島本:武道精神ですかね。落ち込んでいる場合ではないですから。ある人のFACEBOOKに、「悩んでいても仕方がない。今日、寝る前に明日はもっと良い日にするぞと思い、起きた時に、今日は昨日よりも良い日にするぞと思うようにしている」という書き込みがあったんです。言霊ではないですが、それを口にするようにしています。
これまでも大会前に、「優勝する」と宣言して有言実行してきましたが、大きな成果を出すためには、言葉にすることは重要だと思っています。今、道場をスタートできなくて苦しいかもしれませんが、5年後、10年後には笑い飛ばせる時が絶対にきます。今はそのための充電期間です。通常に戻ってから、一気に道場を発展させていきます。
――窮地に追い込まれた時、どんな思考ができるか。そこに武道の真髄が詰まっているように感じます。
島本:ピンチはチャンスです。普通に道場をオープンして軌道に乗せていたら、自分は経営のことをここまで考えなかったかもしれません。でも、今回のことで資金繰りも含めて様々なアイデアが頭の中に生まれてきています。ネットを利用した稽古も含めて、いい試練を与えていただいたと思っています。
――武道家は、逆境に強いですね。
島本:新極真会の緑(健児)代表、小井(泰三)事務局長、塚本(徳臣)師範、鈴木(国博)師範、たくさんの方々から心配のご連絡をいただき、また貴重なアドバイスをいただきました。皆さん同じように大変な中、仲間を心配する精神と思いやりがあります。武道の力ですね。こんな時だから、武道の力が求められているのではないでしょうか。
――世界で苦しんでいる方へかける言葉はありますか?
島本:自分なんかの立場ではおこがましいですが、今、私たちができることは感染拡大を止めることです。一人ひとりが自覚をもって、行動するようにいたしましょう。そして一日も早く、会社や学校が通常に戻り、みなさん笑顔で会える日が早く来ることを祈っています。僕も空手で培った武道精神で困難に立ち向かいます。道場で、みなさんに会える日を楽しみにしています。押忍!
練馬島本道場ホームページ
島本雄二(しまもと・ゆうじ)
1990年1月23日、広島県出身。広島経済大学卒業。新極真会第25回全日本ウエイト制大会中量級3位に入賞して頭角を現わす。同27回大会重量級で準優勝、28回大会で優勝して階級別の日本一の座を手に入れる。新極真会第44回全日本大会では、兄・一二三と史上初の兄弟決勝対決を実現して無差別級の頂点に立つ。第46回全日本大会でも優勝すると、第11回世界大会を制して世界チャンピオンとなる。階級別の世界大会となる第6回全世界ウエイト制大会重量級でも優勝し、主要大会すべて制覇するグランドスラムを達成した。2019年には第12回世界大会で優勝して史上二人目の連覇を成し遂げ、翌2020年に練馬島本道場を設立した。突き刺さる前蹴りをはじめ、すべての技に精通し、最も完成度の高い空手家として世界で評価されている。
取材・松井孝夫/写真提供・新極真会
緑健児代表の貴重映像、ヴァーチャル稽古など、新極真会が「武道」の魅力を配信中
島本雄二チャンピオンだけではなく、新極真会では多くの稽古映像を配信中(新極真会オフィシャルYou Tube CHANNEL)。中でも貴重な映像は第5回世界チャンピオンでもある緑健児・新極真会代表による組手テクニック。「小さな巨人」が世界を制した突きから廻し蹴りへのコンビネーションは必見だ。
▼緑健児代表のチャンピオンテクニック
続いて第6回世界大会で史上最年少初優勝、第10回世界大会で史上最年長優勝、「マッハ蹴り」でフルコンタクト空手界に革命を起こした塚本徳臣支部長の「マッハ蹴りの極意」。軸足の返し方、体重移動など、マッハ蹴りを使うための基礎が短い時間に凝縮されている。
▼塚本徳臣直伝 マッハ蹴りの極意 SHINKYOKUSHINKAI
そして斬新なのは、総本部道場配信の『ヴァーチャル空手』。志村朱々璃初段が順突き・逆突き・直突きや外受けなどの基本動作を指導し、今度は正面に構える同氏の動きに合わせて突きを出したり、受けをするというもの。ゲーム感覚で実際に動くことができる世界初(?)の試みだ。
▼『ヴァーチャル空手』
また、逢坂祐一郎支部長による自宅できる稽古方法は練習器具の作り方から始まり、突きの稽古、ステップ、体捌きとステップアップする動画が続々と配信されている。また、鋼鉄の肉体を持つ前川憲司支部長は、自宅できるフィジカルトレーニングを指南。他にも各支部長が道場生へ向けたオンライン稽古を開講するなど、この時期に合わせた幅広い展開を見せている。
▼逢坂祐一郎 自宅練習 練習器具の作り方
▼逢坂祐一郎 自宅練習 突き・初心者
▼前川憲司 自宅フィジカルトレ 体幹