多くの市民ランナーをサポートするクラブチーム「e-Athletes」ヘッドコーチの鈴木彰さんに、コロナ禍にも対応した最新ランニングノウハウを伝授していただくこの連載。第1回では、まだランニングを始めていない方にもきっと響くランニングの魅力を教えていただきました。
「ランニングは〝思っていたよりも楽しい〟」
新型コロナウイルスが流行する前の数十年間、かつてないほどのランニングブームが巻き起こりました。まず、20年前のシドニーオリンピックで女子マラソンの高橋尚子さんが金メダルを獲得したことがきっかけと思います。「マラソンって楽しいらしい」と世間の評価が変わり、2007年には誰でも参加できるビックイベントの東京マラソンがスタートしました。ブーム以前は、みなさん学生時代の持久走やマラソン大会の記憶が強いのか、ランニングは苦行という認識を持つ方が多かったのではないでしょうか。それが、マラソン選手の活躍や大規模イベントの誕生により、「誰でも走れて、楽しい」というポジティブな方向に変わっていきました。そして、メディアもランニングブームが起きていることを大々的に報じるようになり、いわゆるブームになっていったのです。
まさにこの過程で多くの人が気づいてくれた〝思っていたよりも楽しい〟という感覚がランニングの魅力のひとつだと思います。もうひとつ大きな魅力として挙げられるのは、健康増進の効果があることでしょう。1970年代に厚生省が「国民健康づくり計画」を発表してから、国民の健康対策に対する意識が高まったことで一つの流れができました。たとえば、健康診断であまり数値がよくなかった人が、何か運動をしようと考えたとき、ランニングを選ぶケースが増えた印象があります。思い立ったらすぐに始められる手軽さも興味を持つ人たちの背中を押してくれました。近年も生活習慣病対策を目的に走っている方は多いです。有酸素運動のランニングを習慣づけることで血液の巡りが良くなりますし、心肺機能も高まって脂肪燃焼の効果もあります。
コロナ禍以前のブームでは、テニスやスキーをやるようなレジャー感覚で自分もマラソンを完走してみたいという方が多く現われました。昨今はテレワークの実施などにより、自宅で過ごす時間が増えたことから、運動不足解消のために走り始めたという方が大半です。そういった意味でコロナ禍以前と以後のランナーで感覚が違う部分があると思います。
このようにランナーは、健康志向やレジャー感覚で楽しむ方もいれば、記録を追い求めていく方もいるなど、複数のタイプに分かれます。重要なことは、このタイプは移り変わるということ。最初は健康増進を目的に仕方なく始めた人が、だんだんと走ることが楽しくなって、イベントに参加してみたくなるのはよくあるケース。さらに、レースに参加するだけで楽しかったものが、良いタイムが出るようになると、もっと良い結果を求めて真剣にトレーニングをするようになる。継続することで、走ることが楽しくなっていき、目指すものが変化していくのです。走ることは単純な動作ですが、目的が変わっていけば、楽しみは尽きないと思います。
取材・文/高野昭喜
※第2回は、ランニングシューズについてご解説いただきます!
鈴木彰(すずき・あきら)
NPO法人あっとランナー代表理事、e-Athletesヘッドコーチ。日本体育協会公認陸上コーチ。東京学芸大学教育学部卒。中学から本格的に走り始め、高校・大学・実業団を経て1989年に指導者に転身。走歴40年、指導歴は30年を超え、大学生アスリート・トップ市民ランナーから、初心者、そして中高年ランナーを多数指導する傍ら、自らも生涯現役を標榜して走り続けている。1985年に初マラソン。ベストタイムは2時間20分43秒。日本陸連普及委員、ランニング学会理事を歴任し、2001年にクラブチームを形態としたランニングスクール・e-Athletesを設立した。