多くの市民ランナーをサポートするクラブチーム「e-Athletes」ヘッドコーチの鈴木彰さんに、コロナ禍にも対応した最新ランニングノウハウを伝授していただくこの連載。第4回では、おすすめ練習メニューを紹介していただきましたが、何事も継続することが大切です。そこで第5回では、ランニングを続けるために必要なポイントを教えていただきました。
「周囲に影響されず、自分に適合する走り方をすることが必要」
ランニングを続けるためには、自分の目標や志向性を明確にすることが大事です。健康増進を目的にしている方が、毎日限界まで走って体がボロボロになったら意味がありませんし、マラソン完走を目指している方が、軽いジョギングを週2、3回やっているだけでは到底達成することはできません。まずは志向性を明確にしましょう。もうひとつ、ランニングを継続できない人に多いパターンがありますが、頑張りすぎてしまうことです。走ることは良くも悪くも誰にでもできることなので、頑張るとかなりのことができてしまうのです。東京マラソンの参加者は大体3割がマラソン初挑戦ですが、それでも完走率は95%以上あります。じつは人間はマラソンに向いていて、頑張ればフルマラソンも走れてしまう。ただ、しっかりとした土台がないと走った後にとんでもないことになりかねません。これは日常のランニングでも同じことが言えて、毎日のように今日も疲れたと感じるくらい追い込んでいると、だんだん嫌になっていく。重要なのは「このくらいでいいかな」で止めて、その感覚(腹八分)で走ることができる距離を伸ばしていくことです。そのほうが長続きしますし、意外と先のステップに進むことができます。
これはコロナ禍以前の話ですが、新しくランニングを始めた方の7割が半年でやめてしまうことがスポーツウェア大手のデサントが行なった調査で判明しました。ランニングブームは拡大し続けているというお話は第1回にしましたが、ここにきて少し頭打ちで微妙に減り始めています。2007年の東京マラソンスタート後に一気に増えたので、そこから10年くらい経てばやめてしまう人が出てくるのも当然のこと。減少の要因は新しく始める人よりもやめる人が上回っているからです。やめる人が増えているのは、それだけ継続が難しいということ。だからこそ、冒頭に記した目標や志向性を明確にすることが大事なのです。たとえば、周囲に影響されて、無理なチャレンジをしていたら、耐えきれずにやめてしまうケースもあるでしょう。一方、コロナ禍の中で走り始めた方は、「運動不足解消のため」という、ある意味せまい価値観の中で走っている場合がほとんどだと思います。大会やイベントもなく、運動不足解消だけが目的だと、どこかで飽きがくるでしょう。コロナが落ち着いてくれば、以前のような環境に変わってくる可能性があるので、しっかりとした志向性を持って、どのように走っていくかを把握することが大切です。周囲に影響されず、自分の条件に適合した走り方をすることが、長くランニングを続けるために必要なことでしょう。
取材・文/高野昭喜
※第6回は、レースに出場する際の心得を伝授してもらいます!
鈴木彰(すずき・あきら)
NPO法人あっとランナー代表理事、e-Athletesヘッドコーチ。日本体育協会公認陸上コーチ。東京学芸大学教育学部卒。中学から本格的に走り始め、高校・大学・実業団を経て1989年に指導者に転身。走歴40年、指導歴は30年を超え、大学生アスリート・トップ市民ランナーから、初心者、そして中高年ランナーを多数指導する傍ら、自らも生涯現役を標榜して走り続けている。1985年に初マラソン。ベストタイムは2時間20分43秒。日本陸連普及委員、ランニング学会理事を歴任し、2001年にクラブチームを形態としたランニングスクール・e-Athletesを設立した。