トレーナーもまだ知らない最先端の「筋肉の科学」。筋肉博士・石井直方教授の最新刊で語られた理論とは?




24時間ジムやパーソナルトレーナーが増加し、老若男女がごく自然に筋トレに励むようになってきている昨今。これだけ普及しているのだから、当然、筋肉に関するほとんどのことは科学的に解明されていると思っていませんか?

しかし、筋肉研究の第一人者である石井直方・東京大学名誉教授は、筋肉の性質、筋トレによる筋肥大のメカニズムなどは、まだ半分程度しかわかっていないと言います。

そもそも1990年くらいまでは「筋トレは健康にとってマイナス」という見方が世界的に強く、多くの人が取り組んでいたのは有酸素運動がメインでした。ところが2000年頃から健康やダイエットのために筋トレが有効であることがわかりはじめ、一気に研究が進んできたという経緯があります。

つまり、筋肉の解明は今まさに急速に進行中であり、新たな情報が次々に発信されているのです。

この12月に発売される『石井直方の さらに深い筋肉の科学2.0』(ベースボール・マガジン社)は、そんな最新の筋肉情報が詰め込まれた1冊です。

筋線維の基本構造や筋肥大の原理といった知識はもちろんのこと、石井教授ならではの情報分析や考察も見どころの一つでしょう。例えば、「マッスルメモリー」の解説と、それを利用した筋トレプログラムの提案。新型コロナウイルスのワクチン誕生で懸念される新たなドーピング問題。アイシングの常識を覆す新たなエビデンス。2022年に論文化されたばかりの「筋トレ効果を予測する数理モデル」など、研究界だけでなくトレーニング現場でも役立つテーマが、深く、わかりやすく語られています。

「70~85%1RMを3セット、週2~3回」という【標準法】は本当に正しいのか?という問いに真っ向から向き合った項には、かなりのページが割かれていて読み応えがあります。これはトレーナーやトレーニーのニーズをとらえた内容でしょう。

序文には「オートメーション化やAI技術に対し、人類が積み上げてきた、もうひとつの生きる知恵」という一文があります。

カラダの構造は原始時代と変わらず1/3~1/2ほどを筋肉が占めているにもかかわらず、科学技術の急速な進歩によって筋肉を使う機会が激減している現在は、ヒトという種の存続において危機的な状況なのかもしれません。本来、動物のカラダは「活動的に生きる」ように設計されているため、世の中が便利になればなるほど自身のカラダや筋肉に目を向ける必要があると言えるのでしょう。

まだプロのトレーナーにも浸透していない数々の最新知識が含まれ、人類の未来にも影響を与える可能性を秘めた本書。要注目です。