「肩メロン!」「肩に小っちゃいジープ乗せてんのかい!」
みなさんはこういったボディビルのかけ声を、テレビや会場で耳にしたことがあるでしょうか。独特のワードセンスが話題になり、かつてテレビ番組でも取り上げられたかけ声は、『ボディビルのかけ声辞典』(スモール出版)という本が発売されるほどの人気を博しました。
しかし、2020年からは新型コロナウイルスの影響で、拍手のみの応援が余儀なくされるという事態に。かけ声のない大会が約3年間続いたわけですが、最近は一部地方で声援が解禁されるなど、かつての応援ムードが戻りそうな兆しが見えてきています。
そこで今回は、大会での「かけ声」にスポットを当ててみました。お話を伺ったのは、2013年に全日本学生ボディビル選手権で準優勝し、同年のミスター早稲田にも輝いた和田駿さん。今も大会会場に足を運ぶ和田さんに、かけ声の魅力はもちろん、その裏側に込められた思いも話していただきました。
かけ声を知れば、ボディビルがもっと面白くなる
――そもそも、ボディビルのかけ声とはどのような意味合いのものなのでしょうか。
「一言で言うと、選手をリスペクトして応援するものです。選手の素晴らしい部位などを、たとえ言葉と番号で叫んだりします。僕も選手をやっていたのでわかりますが、そういった声援には背中を押されますね」
――かけ声について『面白い』という印象を抱く人も多いと思います。
「本当に独特のワードセンスですよね(笑)。とはいえ、選手を応援するものですから、笑わせるものではありません。僕がよくやっていたのは、応援したい人のよかった部位を覚えておいて、そのポーズが来る直前の間の時間でかけ声をかけるなどです。血管が浮き出るほど絞られた肩がいいと思ったら、それこそ『肩メロン!』とか言ってもいいですよね。そうすることで、その選手を応援していなかった人も、かけ声がかかった選手のことを見ますよね。かけ声を通じて、いろいろな選手の魅力に気づくことができます」
――初めてボディビルを見る人は、なおさらどこを見ればいいのかわからないですものね。
「はい。初心者にとっても観戦のヒントになればいいですし、観戦の視点を変えてくれるものだと思います」
――多くの選手にスポットが当たるというのも素敵です。
「そうですね。選手のことを深く知っているからこそ、かけられる声もあります。たとえば、『下北沢のガウディ』って意味わかりますか?」
――わからないです(笑)。
「これは今考えたんですが、下北沢に入り浸って図面を書いていたおじさんが、初めてボディビル大会に出たとしたらこういうのをかけるかな、というかけ声です。ガウディは、サグラダ・ファミリアを生み出した建築家ですよね。ぱっと聞くだけでは意味はわかりませんが、その選手にとって自分のバックボーンを知ってくれている上でのかけ声だとわかったら、がんばる力が湧くのではないでしょうか。どこの出身、昔何をやっていたとか、そういったことを考えると、選手に思い入れが生まれると思います」
――そういった魅力がある一方、リアルなところ、かけ声には賛否両論もありますよね。
「過度なかけ声で雰囲気が乱れることもありますので、選手へのリスペクトが前提であってほしいという声はあります。2018年に本やテレビで一気にかけ声が広まり、面白い側面に注目が集まったので、気持ちはわからなくはないですが……」
――雰囲気が乱れるとは、どういった状況になるのでしょうか。
「わかりやすく言うと、大喜利大会になってしまう感じです。事前に考えてきたワードを叫んで、観客間で内輪ウケしているような状況ですね。最初に話したように、かけ声は選手の素晴らしい体がまずあって、それを褒めるもの。自分とは関係のないようなかけ声が飛んできて笑いが起こるような状況だと、当然、真剣勝負をしている選手は虚しい気持ちになり、雰囲気が悪くなってしまいます。繰り返しになりますが、かけ声の本質は笑わせることではないのです」
――かけ声はあくまで、選手を応援して勇気づけるためのものだと。
「はい。その前提を多くの方に知っていただきたいですね。たとえボディビル観戦が初めてでも、本当に応援したい気持ちがあれば、そのかけ声は選手の励みになるはずです。「○○番かっこいい!」とかでいいんですよ。ボディビルが愛され、リスペクトを持って応援してもらえるように、もしかけ声が解禁された際にはその点を忘れないようにしたいと思います」
(次回は、編集部が気になった具体的なかけ声について)
和田駿(わだ・はやお)
早大バーベルクラブOB。2013年に全日本学生ボディビル選手権で準優勝をはたし、同年のミスター早稲田にも輝いた。現在はOBとして、早大バーベルクラブの監督を務めている。
取材・文/森本雄大