“バルク”時代のボディビル王者が語る
ダイエットにせよ、ボディビルにせよ、「食餌」をおろそかにしては、トレーニングが台無しになる。ボディビル界における世界最高峰の大会「ミスター・オリンピア」を4度制した、ジェイ・カトラーの巨大な肉体が、食餌の重要性を雄弁に物語っている。
The nutrition is more important than the weight training. –Jay Cutler
(“Living Large: Jay Cutler’s 8-Week Mass-Building Trainer – Eat Large”, August 03, 2017, in Bodybuliding.com)
1992年、イングランド出身のドリアン・イエーツがミスター・オリンピア初優勝に輝き、この年から同大会6連覇を達成する。ドリアン・イエーツの特徴は、異様なまでのバルク(筋量)。ボディビルダーを「気持ち悪い」と感じる人であっても、1977年から3連覇を達成したフランク・ゼーンのような身体であれば、ギリシャ彫刻に通じる審美性を見て取ることができるだろう。ところが、ドリアン・イエーツの出現により、ミスター・オリンピアの審査基準は、バルクの巨大さを重視するものとなっていった。
1997年の優勝を最後にドリアン・イエーツが引退、1998年には、これまた圧倒的なバルクを誇るロニー・コールマンが頂点に立つ。そのコールマンの9連覇を阻止したのが、マサチューセッツ出身のジェイ・カトラーである。2008年はデキスター・ジャクソンに王座を譲るものの、2006年から2010年の5年間に、4度のミスター・オリンピア制覇を達成している。
バルク勝負の時代に、4度のミスター・オリンピア優勝。その身体を築き、維持することは、並大抵のことではない。今回引用したウェブ記事で、ジェイ・カトラーの生活が動画で紹介されているが、1日中ひたすら食べていることが確認できる。本人自ら、「料理することと食べることで1日5時間から6時間」、「俺に1日付いて来たら、自分の時間のほとんどを、食べることに費やしているのがわかるだろうね」と述べている。
カトラーが強調しているのは、「食餌(nutrition)」の重要性であり、たんなる「食事(eating)」ではないということに注意したい。カトラーは、「アスリートであれ、ボディビルダーであれ、フィットネス愛好家であれ、やるべきことは、適正量の炭水化物とタンパク質と、良質の脂質を摂ること」であると説く。そして、専門知識を持つ人を頼ること、専門家を雇う金銭的余裕がないのであれば、自分で研究することを推奨している。「なぜなら、食餌はウエイトトレーニングよりも重要だからだ」と。
トレーニングしないことには、身体は変化しない。食事制限だけの減量は、太り過ぎならば効果も出るだろうが、効率は悪く、いつか限界が来る。ステロイドの投与といったドーピングでさえ、トレーニングしなければ、筋肥大は起こらない。身体を変えるために、トレーニングは必要だ。だが、食餌での補填なしには、ジムやロードでのハードワークは、身体を疲弊させるだけのことになりかねない。だから、些か誇張気味であっても、この言葉を覚えておきたい。「食餌はウエイトトレーニングよりも重要だ」。
文/木村卓二