トレーニングによるケガを防ぐには【スペシャリストに訊く・神鳥亮太②】




トレーニング中のケガを防ぎ、効率のよい治療法を探るこのコーナー。引き続き、リハビリテーションの専門家であるPT(Physio Therapist:理学療法士)の神鳥亮太さんにご登場いただく。今回は、トレーニングにおける外傷発生原因について、スポーツ専門PTの立場からの見解をうかがった。
なお、バーベルやプレートを足に落としたり(痛!)、ダンベルとラックの間に指を挟んだり(痛!)など、そうした外傷系のケガは、ほぼ注意力で防げるものですので、本稿では対象外とさせて頂きます(※「その類のケガ、本当に痛いですよね……」某経験者談)。

 

――これまでに、どういった競技の選手のケガを扱ってきたのでしょうか?

私が勤務していた病院には、バスケットボール、サッカー、ラグビー、アメリカンフットボールの選手が多く来ていました。ちなみに、野球は特殊で、野球専門のドクターが存在します。

――競技を問わず、ウエイトトレーニングでのケガの症例も見てきていらっしゃるかと思います。

あるチームの例ですが、試合や練習といった競技以外の時間、ウエイトトレーニング中に、ケガが多く発生するということがありました。時間単位で数字を出すと、試合中のケガの方が多いのですが、ウエイトレーニング中に、1シーズンで10件ほどの急性腰痛が発生していました。時期としては、まだ公式戦まで日数があり、しっかりとウエイトトレーニングをするプレシーズンのことでした。
実際にウエイトトレーニングを指導するのは、S&C(Strength and Conditioning)コーチです。S&Cコーチも様々で、ケガの発生を「仕方がない」という程度に考えている人もいれば、「なぜ腰痛が起きるのか?」といった原因や、その予防まで考えている人もいます。競技そのものの練習や、日常生活が原因で、骨盤が歪んでいる選手がいます。そのままの状態で高重量のウエイトトレーニングを行なうと、ケガをします。また、フォームが悪い、スキルが足りないにも関わらず、高重量のトレーニングを行なう、させてしまうと、選手はケガしてしまいます。
一度、重量を落として、フォームを矯正し、スキルを上げれば、ケガは減ります。先ほど例に挙げたチームは、担当のS&Cコーチが変わったこともあり、実際にウエイトトレーニング中のケガがなくなりました。それだけではなく、身体が大きくなり、除脂肪体重も増えました。

――競技の強化のためのウエイトトレーニングなのに、そこでケガをしてしまうというのは、不幸なことですよね。

1週間だったり2週間だったり、何もできなくなりますからね。

――ケガの予防に向け、PTはどのようなことをするのでしょうか?

チームに携わるPTとしては、S&Cコーチとのコミュニケーションが必要になります。PTは、可動域や姿勢、アラインメント、つまり骨の配列ですね、それらの確認をして、問題のある選手に対して個別の指導をし、S&Cコーチに知らせます。それを受けて、S&Cコーチがスキルを見極め、指導をしてくれれば、ケガは減ると思います。
PTは、起きたケガから原因を追究します。そのため、順番を置き換えて「こうなったら危ない」ということ、ある要素がケガに繋がることを指摘できます。例えば、腰痛を帰納的に探ると、それは骨盤が歪んでいたからだ、その骨盤の歪みは左だけ腸脛靭帯がガチガチになっているからだ、じつは右のお尻の方が小さい、といった要因がみつかります。順番を逆にすると、股関節が固い、ある筋肉のバランスが悪い、だから腰痛になってしまうということになる。何かを聞かれたら、そのように答えますし、そうしたアプローチをしています」

――選手たちは、PTが変化に気付き、それを指摘してもらえます。ですが、一般の人たちにそうした環境は与えられていません。一般の人は、どういったことに気を付けるべきでしょうか?

気付きにくい変化に注意を払うことが大事だと思います。姿勢というのは、なかなか自分では気付かないのではないかと思います。トレーニングによっても、生活習慣によっても変化しうるものです。例えば、大胸筋を鍛えたら、いつの間にか背中が丸まってしまう、そんなこともあります。

やはり、ウエイトトレーニングにおけるフォームは重要である。効果を高めるためにも、ケガの予防のためにも、鏡で細かく確かめる、トレーナーに見てもらうなど、慣れていてもフォームは常にチェックすべきだろう。

次回は、ウエイトトレーニングで発生する代表的なケガについて、より具体的なお話をうかがっていく。

取材・文/木村卓二

神鳥亮太(かんどり・りょうた)
理学療法士、日本体育協会公認アスレティックトレーナー。2000年、北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科理学療法学専攻を卒業し、理学療法士免許を取得。以後、三菱名古屋病院で膝関節、肩関節疾患などのリハビリテーションを担当。現在はジャパンラグビートップリーグ・豊田自動織機シャトルズのヘッドアスレティックトレーナーを務める。