ベンチプレス愛好家がなりやすい「インピンジメント症候群」とは【スペシャリストに訊く・神鳥亮太④】




リハビリテーションのスペシャリスト、PT(Physio Therapist:理学療法士)の神鳥亮太さんにお話を伺うこのコーナー。今回は、「インピンジメント症候群」についてお尋ねする。テニスや野球など、腕を上げる動作を伴うスポーツで発生することが多い肩の症状であり、多くのベンチプレス愛好家が抱える悩みの一つでもある。まずは、その解剖学的理解を進めよう。

 
―――インピンジメント症候群とは、どういった症状なのか、教えて下さい。

「インピンジメント」とは衝突、挟まるという意味です。肩関節の中で、腱板や滑液包、関節唇が衝突したり、挟まったりすることで痛みを起こします。

―――なぜ、ベンチプレスと関係があるのでしょうか?

ベンチプレスで鍛える大胸筋が、鎖骨と上腕骨に付着しているからです。ベンチプレスを多く行う人は、大胸筋によって鎖骨が下に押し込まれていることがあります。そうすると、鎖骨と肩鎖関節を介して、肩甲骨が外転し(肩甲骨を寄せるのとは反対、体の外方向に開く状態)、前傾してしまいます。ここで「鎖骨と肩鎖関節を介して」というのは、大胸筋が直接付着しているのは鎖骨と上腕骨であって、肩甲骨ではないからです。鎖骨に付着しているため、鎖骨と肩鎖関節を介して、結果的に肩甲骨の向きを変えてしまいます。

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―――上腕骨側は、どのような状態になるのでしょうか?

上腕骨が内旋してしまいます(腕の親指側が体幹側に回る状態)。腕を上げるとき、上腕骨は外旋する(腕の親指側が体幹から離れる方向に回る)ようにできています。腕が内旋した状態から上がっているかどうかは、インピンジメント症候群の有無を確かめる方法になります。腕の骨が前にいくことで、上腕二頭筋の長頭にずっと引っ掛かり、二頭筋腱炎が起きたりもします。

―――肩の特有の症状ということでしょうか?

肩甲骨というのは、筋肉に取り囲まれた骨です。肩甲骨は、胸郭(肋骨や胸椎などによって形成される、胸部の骨格部分)の上に乗っかっているだけの状態です。簡単に言うと、筋肉に取り囲まれ、埋まっている骨です。そのため、筋肉の硬さの状態によって、もろに影響を受けます。膝蓋骨(膝のお皿)も似ていて、外側広筋が固いと、引っ張られて、関節の軸自体がずれてしまいます。ですが、肩は、可動域がとても広い関節です。そのため、衝突などが起きやすいのです。肘や足首であれば、そうした現象は起きません。骨と骨の形状によって、関節が形成されているからです。

可動域が広い、言い換えれば不安定な関節である肩。加えて、ウエイトトレーニングのなかで、とくに男性からの人気の高いベンチプレス。この組み合わせであるからこそ、頻発する症状と言えそうだ。次回は、その対策について、お話を伺う。

取材・文/木村卓二

神鳥亮太(かんどり・りょうた)
理学療法士、日本体育協会公認アスレティックトレーナー。2000年、北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科理学療法学専攻を卒業し、理学療法士免許を取得。以後、三菱名古屋病院で膝関節、肩関節疾患などのリハビリテーションを担当。現在はジャパンラグビートップリーグ・豊田自動織機シャトルズのヘッドアスレティックトレーナーを務める。