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千葉真一さんのスピードに息を呑む 【石田武インタビュー②】




観客との合った呼吸が感動を生む

バク転、トンボ切り、まるで重力が存在しないかのように空中で華麗な姿を見せるのがアクション俳優だ。石田武氏は、「アクションアクター」として活動するだけでなく、お笑いユニットでの活動や劇団代表としての顔も持つ。最近ではアクション指導や演出の依頼も多く、その高い身体能力は、業界関係者にはすでに広く知られている。現在の活躍の裏には、どのような身体作りの意識があるのか。それをうかがってみた。(全3回)

 
――アクションアクターとしての仕事は大変でしたか?

大変でしたけど、若い頃に経験したことが、今全てに生きていると思いますね。そして養成所で体操やアクションの技術を学んだことも役立ちましたが、それより現場に行って鍛えられたことが大きい。先輩たちとカメラの前で拳を交えたりするじゃないですか。それが映像に収められるわけですが、OKテイクだとちゃんとオンエアされるけど、失敗テイクだとオンエアに乗ることは一切ないわけです。だからこっちも命懸けです。しかも自分が失敗すると一緒に出演している先輩にも迷惑をかけちゃうでしょ。だから現場の緊張感も凄かった。当時はフィルム撮影なので撮って現像してアテレコしてと複雑な作業が後に控えているし、撮り直しが容易ではなかったんです。

僕が時代劇でアクションの形を覚えたのは、日光江戸村で仕事をしていた時代なんです。1992年のことですが、千葉真一さんと西城秀樹さんがダブル主演でやっていた「徳川無頼帳」(テレビ東京)という時代劇があったんです。その第1話で、大勢の忍者が千葉さんに襲い掛かるというシーンがあったんですが、なぜか僕がミニトランポリンでジャンプして、千葉さんに斬り掛かる役だったんですね。僕は千葉さんに袈裟斬りにされて、着地と同時にフレームアウトという振りを付けられたんです。でも、それだとなんか悔しいから、僕は千葉さんの前でミニトランポリンを跳んで宙返りをしたんですよ。

そしたら千葉さんが「お! 宙返りで来るか!?」と言って、「わかった。お前さんが宙返りで来るんだったら、体が開いた時くらいで斬ってあげるよ。それだったらカッコイイ感じが出るから」みたいな話になったんです。でも、「よーいスタート」って始まったら、千葉さんのアクションがめっちゃ速いんですよ! で、僕が跳び上がって宙返りをした瞬間にはもう斬っちゃてるんです。だから僕は宙返りの途中で必死で体を開きましたよ(笑)。今でもその映像も間違いなくテレビ局には残ってるはずです。だからスーツアクターもそうだし、時代劇もそうだし。全ての経験が、今の自分の技術に繋がっているんです。

――アクションの魅力とはなんでしょう?

アクションの魅力は、演じているときの充実感というよりも、相手と呼吸が合ったとき。僕が今、立華さんとお話をしている、この会話のやり取りと同じ。アクションというのはコミュニケーションツールの一つでもあるわけです。ボクシングでも、良い試合内容なら勝っても負けても「良い試合だった」とあるじゃないですか。男同士「拳と拳」と交える、それに近いものがあるんです。

そしてやっていく中でそれを感じることができて、しかも映像として見ることができて、しかもそれを見た人が感動するっていう。この3つが全て充実して初めて、アクションでいう所の「立ち回り」が完成するんです。これはお芝居も含め、とにかく観てもらってナンボですし、自分の充実感というよりも「観た人が満足してくれるのが一番の充実感」なんです。「演りあってる相手とのコミュニケーションでの充実感」「自分の中の充実感」そして作品としてできたときに「お客さんが反応してくれたときの充実感」。この3つがアクションの魅力になりますね。

――今活動してる劇団でもアクションは重要なものですか?

僕の劇団は、お客さんに「アクション」と、「コメディ」と、「泣き」という喜怒哀楽を楽しんでいただくことを目指しています。お客さんの喜怒哀楽を、僕は芝居の中で引き出したいんです。だからお客さんの五感に訴えるための演出を常に考えています。まずは自分たちの思いを伝えるということよりも、お客さんが1時間半なり2時間なりを飽きずに「あっという間だった!」とか「もう観終わっちゃった…」というのが、僕が目指しているものなんです。アクションはお客さんに楽しんでもらうツールなんですよ。

やはり舞台という狭い空間ですから、照明と音楽に合わせ、一気に立ち回りが始まると、それだけで緊張感を作り出せるんです。緊張感が満ちたアクションの中で、ちょっと失敗の演出を入れることで笑いを誘ったりとか、笑いの後で泣かせる演出を入れたり。アクションだけじゃない。だから退屈なんかさせません。アクションはあっても、アクション一辺倒じゃないんですよ。もちろんアクションももちろん大切にしていますよ。それがベースにありますからね。
(この項続く)

取材・文/立華徳之真

石田 武(いしだ・たけし)
俳優、アクション指導者、劇団EASTONES座長。幼少よりアクションスターに憧れ、学生時代に、その高い身体能力からジャパンアクションクラブに入団。数々のテレビや映画に出演。特に特撮ドラマや時代劇、日光江戸村などでの華麗なパフォーマンスから人気と実力を合わせ持つ俳優として活躍。現在は、お笑い時代劇ユニット「カンカラ」の活動と並行し、映画「ドラえもん」の脚本家である清水東氏と創設した『劇団EASTONES』の座長として、演出・殺陣指導にも力を発揮している。只今、秋の次回作公演に向けて鋭意準備中。
劇団EASTONESのHP

インタビュアー
立華徳之真(たちばな・のりのしん)
パフォーマー兼パフォーマー専門の美容家・治療家・スポーツ指導者。陸上競技・体操・バスケットボール・フィットネス・トレーニング・ジュニアスポーツ・体育施設運営管理・サプリメント・スポーツボランティアなどの専門資格を所持。また柔道整復師・美容師・登録販売者・診療情報管理士として美容・健康・医学領域および出版・映像・イベント・教育・ITなどの実務をこなす。ほか殺陣やアクション、神経系コーディネーションや能力開発などの分野で活動しているハイブリッド。
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