股関節をうまく使い、肩甲骨の柔軟性を保つ
飯田潔トレーナーが指導する「つま先立ちメソッド」を実行すると、基本的には自然にアライメントが整った姿勢になるのだが、自分のクセが出てしまい、うまく整わない人がいる。
つま先立ちでまず低い姿勢をとると、正しいアライメントであれば上半身の角度とすねの角度がほぼ同じになる。
しかし股関節の使い方のクセが強いと、主に2パターンの問題があらわれる。
1 股関節を使えていない
2 股関節を使い過ぎている
1は、つま先立ちスクワットをしたとき、上半身が適度に傾斜せずにまっすぐ起きた状態だ。普段の生活で股関節使う習慣がほとんどないと、低い姿勢をとった時にこのようになってしまう。このタイプはヒザを痛めやすい傾向にあり、スポーツをやるとケガをしやすい。
トレッドミルで検証すると姿勢によって、力の伝わり方が違ってくることがわかる。
右のような良い姿勢であれば力が伝わる。
「自分の重心より前に足を置いて、その位置で押そうとすると押すことができません」
2の場合は上半身が前に倒れすぎて股関節が屈曲すぎている状態。足首と膝がほとんど使えずに、お尻を突き出すような姿勢でバランスをとる。このタイプは反り腰になって腰を痛めやすい。
「スクワットではヒザを足より前に出さないのが基本とされていますが、動いているときにもそれを意識しすぎたり、癖になったりしていると足首が使えなくなってしまう。確かに股関節の伸展筋群は鍛えられるかもしれないが、足首を使えないと、重心が後ろになりすぎて力が伝わらなくなりがちです」
スクワットをたくさんこなして筋肉量が多いから、下半身から大きな力が伝わるというのは単純な考え方のようだ。
また、飯田氏は「体幹トレーニング」という言葉が安易に使われすぎることも懸念している。
「『トレーナーさんに、もっと体幹を鍛えなくてはダメ、と言われました』とおっしゃる方いたのですが、実は腹筋・背筋はそれなりの筋肉量がありました。それなのに体幹を活かせないのは、“四肢のつけ根”の動きが悪く、体幹部と四肢を分離して使えないから。そこに気づかずにトレーニングをしても効果が出ない。股関節、肩甲骨がうまく可動すれば、発揮できる体幹の強さも随分と変わってきます」
だから、動作の基礎となるアライメントが大切になってくる。これは、一般人だけでなく、有名アスリートでも変わらないという。
四肢のつけ根の硬さは、デスクワーク、パソコン作業の影響が大きい。
座りっぱなしの時間が長くなり、骨盤周辺が固まりやすいため、つま先立ちの他に、下の写真のようなストレッチを飯田氏は勧めている。
ヒザを立て、前方に体重を乗せることで後ろ足の鼠径部に付着する大腰筋や腸骨筋(どちらも姿勢保持に重要な役割がある)の柔軟性を高める効果を狙うストレッチだ。
股関節をうまく使うのと同時に肩甲骨の動きも大切になってくる。
デスクワークの影響は当然上半身にも及び、肩がいつも内に入るような、巻いているような状態なっている。これでは肩甲骨の動きは制限されてしまう。
ヒザを下がらずに、後ろに動いて肩甲骨を中央に寄せるような動きを時々行って、柔軟性を保つことが大切だ。↓
飯田氏は肩甲骨を可動させられる、かんたんでいつでもできる動きを教えてくれた。
「テーブルがあって、それを布で拭くとイメージしてヒジから動かします。なるべく水平に、体のすぐ近くから遠くまでできるだけ広い範囲を拭きます。大きなテーブルがあれば実際に肩甲骨が動くのを感じなら拭いてみましょう。垂直面では、体のすぐ近くに大きな窓があるとイメージして拭きます。これもから体のすぐ近くから上方までヒジからの動きで行います」
やってみると体のすぐ近くを拭くと肩甲骨がギュッと寄ってきて、遠くを拭けば肩甲骨が離れる動きが感じられる。
この動きを日々の家事に取り入れられたら、一石二鳥(?)である。
次回は「重心軸」などについて、さらに掘り下げたい。
1969年、東京都出身。「フットトレーナーズ」代表取締役。元日本オリンヒック委員強化コーチングスタッフ。元全日本スキーチーム・テクニカルスタッフ。カラダの動きを考えたシューズ選びやインソール作り、アライメントトレーニングなどでプロアスリートから一般の方までをサポートしている。著書に「つま先立ちで若返る!」(文響社)など。
(株)フットトレーナーズ
取材&文/押切伸一