学生ボディビル、通称・学ボを盛り上げるべくスタートした連載「学ボ応援団(GKB応援団)」。今回は、自身は全日本学生ボディビル選手権準優勝(2013年)をはたし、同年のミスター早稲田にも輝いた和田駿コーチが登場。OBとして、現在のクラブをどう見ているのか?自身の学生時代も振り返りながら、2回に分けて話してもらいました。
僕たちがガクボの盛り上がりの基礎を築いた
ちびめが 和田君が現役だった2010~13年頃というのは、今のガクボの盛り上がりの基礎を築いた年代だと思うのですが、振り返ってどう感じますか。
和田 そうですね。僕としては、2011年というのはガクボ界にも、早大バーベルクラブにも特に大きな意味合いがあったと思っていますね。
ちびめが それはどのような点で?
和田 梶田竜嗣さん(2012年度卒)が当時の主将で、2011年、12年の全日本学生ボディビル選手権を連覇しました。その代には他にも、座間祐輔さん、宮島典平さん、三好玄希さんなど、当時のガクボのトップ10に入るだろう先輩がたくさんいらっしゃいました。2011年の関東学生ボディビル選手権では座間さんが優勝、2位が梶田さん。みなさん、ボディビルとしての実力はもちろん、人柄も素晴らしい方々でした。僕の下の代からは毎年10人以上が入部し続けているのも、この先輩たちの影響が大きかったと思います。
ちびめが 私は2012年から学生ボディビルを観るようになったので、当時の和田君は、かけ声をものすごく頑張っていたのを覚えています。
和田 個人的な話ではありますが、座間さんは普段からはよく一緒にトレーニングをした先輩だったので、特に頑張ってかけ声もかけるようにしていました。ボディビルのかけ声も話題になりはじめたのも、その頃かと思います。
ちびめが それだけ有力選手が多いと、毎年11月に早稲田祭で行われる「ミスター早稲田」への注目も必然的に高まりましたよね。
和田 そうだと思います。Twitterでミスター慶應との比較画像が少しバズったりしたのも影響がありました。2012年は梶田さんがミスター早稲田を獲得し、前年の関東学生を制した座間さん、準優勝だった梶田さんの争いですごくハイレベルでしたよ。バズった流れに乗ってミスター慶應とのコラボ企画もやったりしたのもこの年。この勢いで、ミスター早稲田への出場を志してバーベルクラブに入ってくる学生も増えました。それに、学生ボディビルは敷居の高くない誰でも出られる大会のような認識がそれまであったと感じていましたが、一気にレベルが上がっていき、ガクボそのものの価値が格段に上がっていった気がします。
ちびめが そして、翌年の2013年のミスター早稲田は……。
和田 はい、僕が獲ることができました。ちょうどTVにも取り上げられたのを覚えています。
ちびめが 先ほどのかけ声もそうですし、和田君は近年のガクボ界においてある意味パイオニア的な活躍もされていたと思っているんですよ。
和田 ありがとうございます(笑)。そういえば、今では定番となったチェーンマスキュラーのポーズも、大会の場で最初にやったのは僕たちだったと記憶しています。2013年の全日本学生の決勝比較審査のモストマスキュラーでの審査で、了徳寺大の向井竜太君と、神奈川大学の石井洋君と僕と3人がステージに残った時、向井君が「やりましょう」と言ってポージングしたのが最初のはず。そういう意味では、正確には向井君が発端ですね(笑)。
バーベルクラブを、成長を確かめられる場にしたい
ちびめが 改めてと言いますか、和田君はコーチとして今もこのバーベルクラブに携わっているわけですが、今後、このクラブをこうしていきたいと思っていることはありますか?
和田 いくつかあります。一つは、知識や経験の継承ですね。先日、学生たちに「コーチへの要望は?」と聞いて返ってきた答えの一つが、「OBの方たちが培ってきたものを、現役にもっと伝わるようにしてほしい」ということでした。これだけ長い歴史があるクラブであるにもかかわらず。
ちびめが それは、やっぱりクラブとして全体で活動する機会が少ないことが影響しているんでしょうか?
和田 もちろんそれもあると思いますが、先ほど話したように、現実的にスケジュールや場所の問題で難しい面もあります。とはいえ全体の活動としては、前期終わり7月と、後期の終わりの12月に全員が集まって、スクワット・ベンチプレス・デッドリフトのビッグスリーの成長を確かめる記録会がありますし、パワーリフティングもボディビルも大会はみんなで応援に行くなど、部員全体で活動する機会は多くあります。
ちびめが 知識や経験を継承するのは、なかなか難しい問題ですね。
和田 春や夏に合宿も行ないますが、知識・経験を蓄積する問題はなんとか解決し、継承する仕組みを作っていきたいです。そしてもう一つは、「競技志向」の強さを持ってほしいことです。
ちびめが もっと強く持ったほうがいいと?
和田 いや、逆ですね。先日開かれた、学生だけのミーティングの報告の一つに、「競技志向の強い部員が多い」とのコメントがあったんです。そのなかでボディビル、パワーリフティング、フィジークの出場を目指している部員がそれぞれ何人いるとの話を聞きました。ただ、僕としては「全員が競技志向を持って活動するのが当たり前」のような風潮になっているのが実は気になっているところなんです。
ちびめが それが強すぎるのは良くないと。
和田 ミスター早稲田になりたい、学生ボディビルで優勝したい、大会の成績を上げていたい……。その目標はもちろん大切だと思います。ただ、バーベルクラブにおいて最も大事なこととして昔から言われているのは、「4年生で卒業するまでに、どれくらい成長したかが大切」ということなんです。大会に出た/出ないは関係なく、身体を鍛えることこそがバーベルクラブが活動する上での最大の目的だからです。
ちびめが 成長できることが大切?
和田 そうです。例えば、重い物を持てなかった細い子が、ベンチプレスで100キロ上がるようになったとか、重い物を持てることで自分に自信がついて、私生活でもいろんなことがうまくいくようになったとか。そういう小さなことでいいんです。その人の4年間を見てきた仲間が、「この人は成長したね」と可視化できる場であってほしい。ウエイトトレーニングは重さが数字として表れるので、尺度として見えやすいじゃないですか。もちろん体の見た目の変化もあります。成長が見えて大学を卒業していってくれることが何よりうれしいので、競技として結果を出すことだけが必ずしも大事ではないんだと、部員には伝えていきたいですね。
ちびめが 学生たちにとって和田君は、頼れる相談役なんですね。
和田 はい、そうであり続けたいと思います。
早大バーベルクラブ
ボディビル、パワーリフティング競技に取り組む1962年創部の早稲田大学の学生の会。初代部長は1960年ローマ五輪ウエイトリフティング競技に出場した早大名誉教授の故・窪田登氏。同クラブは1965年関東学生連盟発足時より運営・競技に中心的役割を果たし、現在も各大学の体育会が加盟する学生連盟に同クラブは同好会として加盟する。ボディビル全日本学生選手権大会の優勝者は過去5人。2013年より創設された全日本学生選手権大会「団体の部」で、17、18年と連覇し、通算4回目の優勝を果たす。OBにプロボディビルダーの山岸秀匡氏(1996年度卒)。
インタビュー/ちびめが 写真/木村雄大