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筋トレと有酸素運動の間は「3時間」あけるのがコツ?【石井直方のVIVA筋肉! 第39回】




“筋肉博士”石井直方先生が、最新情報と経験に基づいて筋肉とトレーニングの素晴らしさを発信する連載。今回は筋トレと有酸素運動の順番について解説した第22回の続編です。1日で筋トレと有酸素運動をする際、”結果”に影響する大切なポイントなので、ぜひ覚えておきましょう。

筋トレと有酸素運動(エアロビック)。
これはフィットネスには欠かせない二大要素と言えます。それゆえに多くのトレーニーが、より効果的な方法を追い求めていることでしょう。

本連載の第22回では「ダイエットをするなら、筋トレ→有酸素運動の順番で行なうべき」というセオリーを紹介しました。
筋トレをすることで交感神経が活性化するとともに、“やせホルモン”とも呼ばれる成長ホルモンが分泌され、脂肪が分解されやすい状態になるからです。

脂肪を減らすことが最優先なら、これだけ意識していればOK。ただ、「筋肉をつける」ことも重視する場合、今回の記事をじっくり読んでもらいたいと思います。

第22回で紹介した私たちの研究では、筋トレから20分後と120分後の体の状態を比較しています。20分後のほうが脂肪の代謝は高かったのですが、120分後であってもそれは高いレベルで持続していることがわかりました。
つまり、少なくとも筋トレから2時間以内くらいに有酸素運動を行なえば、ダイエット効果は高くなると考えられます。
(実際には、180分、240分とさらに時間が経過しても、それなりに脂肪が燃えやすい状況は続いていると思われます)

さて、ここからが重要なお話です。

その後に行なった実験では、次のような結果が出ました。今から3年ほど前の研究なので、比較的新しい情報です。

有酸素運動をすると、AMPK(アデノシン一リン酸活性化プロテインキナーゼ)という酵素が活性化します。AMPKは筋肉中のエネルギーの状態をモニターする働きを持ち、エネルギー源であるATP(アデノシン三リン酸)が不足することで生じるAPM(アデノシン一リン酸)が結合することで活性化します。そして、タンパク質の合成をストップさせ、ATPが無駄に使われないようにするのです。
同時に、ミトコンドリアの増殖を促すとともに有酸素性代謝に関連する酵素を増やし、ATPを合成する能力を高める方向に細胞をシフトさせます。

通常、この反応は栄養失調になった時に強く起こります。糖質によるエネルギー供給が足りない状況では、基本的に筋肉を太くしようという反応は起こらないわけです。
長時間の有酸素運動で栄養失調と同じような現象が起こるのは、少ないエネルギーで活動できるような能力を高め、体をよりエコノミカルな方向にシフトするためでしょう。

筋トレでタンパク質合成のスイッチをオンにしたのに、その後の有酸素運動でオフになってしまうとしたら、筋トレ効果が相殺されてしまう危険性があります。
実際、ネズミに筋トレをさせた後、すぐにトレッドミルを走らせると、上がりかけたタンパク質の合成がオフになってしまう現象が起こります。逆に、有酸素運動を行なった後に筋トレをすると、よりタンパク質の合成が上がるという結果が出ています。

ということは、筋肉をつけることが目的の場合、「有酸素運動→筋トレ」の順番のほうがいいのでしょうか?

人間が対象の場合、必ずしもそうとは言えません。
ネズミを使った実験では、麻酔をかけて眠らせた状態で電気刺激による模擬的な筋トレを行なわせています。つまり、その前に有酸素運動をしていても、していなくても、ネズミは同じ質のトレーニングを無理やりさせられてしまいます。
しかし人間の場合、筋トレ前に1時間の有酸素運動をしてしまうと、疲れによって筋トレの質が落ちてしまうことは否めません。
また、第22回でも説明したように、有酸素運動後に筋トレを行なうと成長ホルモンの分泌も抑制され、筋肥大効果が弱まってしまう可能性があります。
したがって、「有酸素運動→筋トレ」という順番は、やはり現実的ではないと言えます。

では、どうするのがベストなのでしょう。

「筋肉をつけながら、脂肪も落としたい。なおかつ1日で筋トレと有酸素運動の両方を行ないたい」という贅沢な希望がある場合、筋トレ後3時間程度の時間をあけてから有酸素運動をするのがいいと思います。

3時間経過すれば、タンパク質の合成は十分に進んでいて、すでにその「指令」はオフになっています。したがって、ここで有酸素運動を行なっても負の影響はないと考えられます。
一方、筋トレによって遊離脂肪酸の濃度が上がった(脂質代謝の高い)状態はまだ続いているはずなので、ダイエット効果は持続していると考えられます。
ですから、たとえば昼頃に筋トレをして、夕方くらいに有酸素運動を行なうというペースであればまったく問題ないでしょう。

ただ、これは有酸素運動の強度や量にも依存します。かなり高い強度の有酸素運動を1時間以上するような場合には、もう少し時間をあけるか、筋トレと日を変えるほうがいいかもしれません。

あらためて今回の内容を整理すると、「筋肉をつけながら、脂肪を減らす」という目的がある場合は、「筋トレ→3時間程度あけてから有酸素運動」あるいは「筋トレと有酸素運動の日を分ける」ことが大切ということになります。

 

石井直方(いしい・なおかた)
1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学・大学院教授。理学博士。東京大学スポーツ先端科学研究拠点長。専門は身体運動科学、筋生理学、トレーニング科学。ボディビルダーとしてミスター日本優勝(2度)、ミスターアジア優勝、世界選手権3位の実績を持ち、研究者としても数多くの書籍やテレビ出演で知られる「筋肉博士」。トレーニングの方法論はもちろん、健康、アンチエイジング、スポーツなどの分野でも、わかりやすい解説で長年にわたり活躍中。『スロトレ』(高橋書店)、『筋肉まるわかり大事典』(ベースボール・マガジン社)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など、世間をにぎわせた著作は多数。
石井直方研究室HP