元サッカー日本代表であり、現在は腸内フローラ(腸内細菌の生態系)解析事業を行うベンチャー・AuB(オーブ)株式会社の代表取締役を務める鈴木啓太氏。これまでに約700人1,400検体にも及ぶアスリートの“うんち”を基にデータの分析をするなど、腸にフォーカスしたアスリートのコンディション管理、パフォーマンス向上を目標に、日々研究を行っている。今回は、AuBでの研究の成果について。
集めたうんちは700人以上1,400検体
――2015年シーズン終了後に現役を引退され、同時に会社の代表としてのキャリアが始まったとのことですが、どういったメンバーでスタートしたのですか?
鈴木:最初はトレーナーさんや研究者の方など5人でスタートしました。アスリートのうんちから、アスリートをサポートしていこう、またそこから得られた知見で一般の人たちの健康にも貢献しよう、ということを僕がやりたいと言ったときに集まってくれた人たちですね。
――具体的には、どういうことから始めましたか?
鈴木:まず我々がやらなければいけなかったのは、アスリートのうんちを集めることでした。プライベートでも親交のあるラグビーの松島幸太朗選手にはじまり、今では700人以上1,400検体にもなったのですが、ある程度集めるのには1、2年かかりましたね。当たり前ですが、何をやっているのかよくわからない企業ですし、まだよくわからない研究段階で、「うんちをちょうだい」とお願いするわけですから、理解いただくのが難しかったケースもありました。
――でも結果的にそれだけの検体を集めることに成功し、研究が進んでいったわけですね。
鈴木: 2018年に最初に学会で発表させていただいたのは、「アスリートと一般人の腸内環境の違い」という内容でした。具体的には、アスリートの腸内環境は菌の多様性が一般の方と比べると高いということ、つまりいろんな種類の菌が腸内に棲んでいるということです。またもう一点が、「酪酸菌」という免疫機能を整えたり、腸の動きを活発にしたりする働きがある菌が、一般の方と比べるとアスリートは約2倍(一般の方は腸内細菌の一般の方は腸内細菌の全体数のうち2~5%が酪酸菌なのに対してアスリートは5~10%と約2倍の割合)ということを発表させていただきました。
――なぜアスリートにそういう傾向が生まれるかという点についてはいかがでしょうか?
鈴木:そこについてはまだわかってないのですが、生活習慣であったり、摂取する栄養であったりが関係してくるのかもしれません。アスリートの中でも持久系かパワー系かなど、タイプ別で腸内環境が異なるという傾向も見えてきているところです。この点に関しては、腸内細菌の種類や数、構成のデータを機械学習するAIシステムを開発し、アスリートの腸内環境の解析データをAIに読み込むだけで、サッカー選手か否かを85%の確率で見分けられるようにまでなりました。便の検体数を増やし、さらにAIの精度を向上させていけば、他の競技でもある程度分類ができるのではと考えています。
――アスリートと一般の方で腸内環境に違いがあるとのことですが、やはりアスリートのほうが良い、という考えになるのでしょうか。
鈴木:良いと思います。とはいえ、良い・悪いというのは人によって何を見るのかによってもそれぞれ異なってきます。菌の機能として、この菌がこういう働きをするというのはあって、こういうほうが良いというのはあります。多様性というところで言うと、病気や疾患を持たれている方と、健常者の方では多様性は異なります。それを照らし合わせると、多様性が高いほうがいいですよね、となりますよね。そう考えると、アスリートは多様性が高いから良いということになります。
――絶対的にこうだから良いというわけではなく、比較するものがあってはじめて良い・悪いと言える。
鈴木:そうですね。酪酸菌が多いという点についても、これは免疫機能に大きく関係している菌なので、多いほうがいいですよねという話になります。それを良い腸内環境、悪い腸内環境という点で考えると、比較するものがあってはじめて良い・悪いということになりますので。
――ちなみにですが、それだけのアスリートの検体を集めていると、「この人はすごかった」みたいなケースはありましたか?
鈴木:ありましたね。ただそこは研究内容に関わるところなので、あまり詳しくはお話できません。菌というのは基準株というのがあって、この菌はおおよそこうだ、というものがあります。それよりも機能が良いと、それは特殊ということになりますし、そういう発見ができていたりはしますね。
――そうやって積み重ねた知見の成果が、2019年12月に発売した「AuB BASE(オーブ ベース)」に詰め込まれているわけですね。
鈴木:はい。とはいえ僕たちは研究開発型のベンチャー企業なので、僕自身がやりたいこととしてはサプリメントを売りたいわけではない、ということはあります。事業を始めてから割とすぐに、ビジネスとしてサプリメントを作って売ろうかという話はあったんですけど、僕は、それはいやだと頑なに断り続けていました。ただ、ビジネスはやっていかないとお金は回りませんし、従業員もいますし、もちろん研究にもお金が必要になります。そうしてお金がどんどん減っていくなかで、ようやくプロダクトとして僕たちの研究の成果を込めたものが出せそうというところまできました。
★Vol.3「『便』は『便り』。見逃すのはもったいない」に続く
鈴木啓太(すずき・けいた)
1981年、静岡県出身。AuB株式会社代表取締役。元プロサッカー選手。2000年に、東海大翔洋高校から浦和レッズに加入。ベストイレブンに2度輝くなど、16年にわたり浦和一筋でプレー。2006年にはイビチャ・オシムが監督に就任した日本代表にも選出され、オシムジャパンでは唯一、全試合先発出場を果たす。2015年シーズンをもって現役を引退。同年にAuB株式会社を設立。サッカーの普及に関わりながら、腸内環境にフォーカスした研究を日々行い、その知見やアイデアを事業化。2019年12月にはAuB初商品であるサプリメント「AuB BASE」を発売し、自社ECサイトAuB Storeにて好評発売中。「とくダネ!」(毎週月~金曜朝8:00-9:50、フジテレビ系)の金曜日スペシャルキャスターとして出演中。