子どもは運動すると頭が良くなる【佐久間編集長コラム「週刊VITUP!」第157回】




VITUP!読者の皆様、こんにちは。日曜日のひととき、いかがお過ごしでしょうか? 先日、IWAアカデミー・チーフディレクターの木村匡宏さん監修の『5歳からの最新! キッズ・トレーニング』(1,430円)が発売となりました。

本書では子どもの運動能力向上に役立つ知識と運動メニューを数多く紹介しております。詳しくは実際に読んでいただくとして、ここでは本の制作の際に木村さんからうかがったお話の中から、運動能力の発達と脳の発達についての話を書いていきましょう。

 

「運動すると頭が良くなる」

 

こう言われて、どれだけの人がすんなり受け入れられるでしょうか? 「頭がいい人=勉強ができる人」→「勉強ができる人は脳が発達している人」。こうやって考えていくと、運動と頭のよさは無関係のように感じます。

 

しかし、人間が脳を使うのは勉強の場面に限ったことはでありません。走ったり、歩いたり、ジャンプしたりと、体を動かす時にも、人間はすべて脳からの指令を受けています。計算問題を解いたり、漢字や英単語を覚えたりすることだけが脳の働きではなく、考える、怒る、泣く、楽しむ……これらの感情の動きもすべて、脳の働きによるものです。

 

人間にとって脳が極めて大事であることは誰にでも理解できると思いますが、人は脳だけで生きているわけではありません。体があっての脳であるということを覚えておく必要があります。脳はバランスよく全体的に発達するのではなく、場所によって司る役割が決まっていて、それぞれが順を追って発達していきます。

 

まず幼児期に発達するのが、運動をコントロールする「運動野」と呼ばれる場所。その影響で小さな子どもは、とにかく走り回ったりして動きたがります。これは脳が発達するために必要なことで、子どもは動くことで自分の体を認識して成長していきます。つまり、幼児期から運動に親しませることは、脳の発達から考えてもとても重要なことなのです。

 

脳についてもう少し詳しく説明すると、人間の脳は三層にわかれています。深層部分にある「脳幹」は主に生命維持の役割を担い、心臓を動かし、呼吸や体温調節、自律神経の調節などを司っています。二層目の「大脳辺縁系」は、主に「楽しい」「気持ちいい」「やりたい」という感情や意欲を扱う場所。三層目は「大脳皮質」と呼ばれる場所で、言葉、認知、複雑な判断、創造力をはじめ、様々な知的な活動を行なう役割を持ちます。人の脳は体を動かすことによって発達していくので、二層目で「運動が楽しい」「運動をやりたい」という気持ちになることが大事。こうした運動をやりたい意欲が、三層目の高度な動きや姿勢のコントロールにつながってきます。

 

では、どんな運動をすればいいのか?という疑問が出てくると思います。ここで誤解してはいけないのは、必ずしも「運動=スポーツ」ではないということ。ルールのあるスポーツだけが運動ではありません。子どもの場合は、スポーツに必要なスキルなど何も考えずに遊ぶだけでも十分な運動になります。ノンシステマティックにいろいろな遊びをすることで、体が勝手に動きを吸収していきます。

 

「追いかける」「逃げる」「転ぶ」「駆け上がる・下りる」「投げる」「捕る」「打つ」「押す・引く」「よける」「切り返す」……無意識で遊んでいても、体はいろいろな動きをしています。日常生活のなかに、こうした運動機会を取り入れることが、子どもにとっては必要。それぞれの動作を上手にできるかどうかよりも、まずは機会を与えることが大事なのです。

運動機会を与えれば、子どもは自分の意思で夢中になって取り組み、うまくやるための体の動かし方を勝手に覚えていきます。ここで気をつけたいのは、「ああしなさい」「こうしなさい」と、大人が過剰なアドバイスをしてしまうことです。大人は安全を確保して見守っていれば十分。自主的に遊びに取り組むことで、子どもの集中力はどんどん深まっていきます。

 

自分で考えて取り組み、それを大人に否定することなく励まされれば、体を通して“よい体験”として子どもの記憶に刻まれます。こうした体験を日常の中で重ねていくことで、第二階層の大脳辺縁系を刺激し、運動が「楽しい」「達成感」という意欲につながります。そして「次は何をやろうかな?」と先の予定を計画しながらイメージを繰り返すことで、様々な知的活動をおこなう大脳皮質を使いつつ、脳全体のネットワークがつながっていきます。

 

こうして幼少期から運動による刺激を脳に与えながら育った子どもは、脳と体が健全に発達していきます。運動が習慣化されると、それが勉強にも好影響を及ぼすという事例もいくつかあります。ある有名私立中高一貫校では、体育への出席率と東京大学への進学率に相関関係があることがデータで導かれました。6年間一度も体育を休まない生徒ほど、東大への合格率が高まるというデータです。また、0時限目に体育を取り入れた高校で、多くの生徒の成績が上がったという研究結果もあります。こうした事例は、運動することが脳や勉強にもよい影響を与えることの一つの証明と言えるでしょう。

 

「運動すると頭が良くなる」

 

運動能力を高めることで脳の発達を促す。これはまさしく子育ての鉄板とも呼べる一石二鳥大作戦です。親として「子どもにはどんな習い事をさせたら将来のためになるか?」と考えるのも良いことですが、難しく考える必要はありません。思い切り体を使って遊ばせることで、子どもは体も脳もしっかり成長していきます。

 

佐久間一彦(さくま・かずひこ)
1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、高校日本代表選出、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアン、パラリンピアンの取材を手がける。