タイヤはぶっこ抜きジャーマンの原点【稲村愛輝#2】




世界で盛り上がりを見せている競技である「ストロングマン」。高重量を挙げることにフォーカスし、多種多様な種目があることが特徴だ。中でもタイヤを用いた種目をトレーニングに取り入れ、「強く、大きな身体づくり」に励む稲村選手。今回は、トレーニング詳細や効果についてお話を伺いました。

――大きなタイヤは何キロありますか?

稲村 NOAHの道場にあるもので、大きいタイヤが350kg、小さいタイヤが100kgです。使っているうちに表面が削れて軽くなってくるので、新品の状態では大きなタイヤで400kgくらいあったりするみたいです。以前練習に行かせていただいた場所では、500kgのタイヤを返したこともありました。

――メニューは自分で考えているのですか?

稲村 ストロングマンの練習ができるジムがあり、そこに通って教えてもらっています。ストロングマンの競技目的は、重いものを挙げるということなので、身体の動かし方を確かめてから重量を挙げるという練習をしています。ストロングマントレーニングを始めてから、バーベルのMAX重量も上がりました。

――現在行なっているメニューを教えてください。

稲村 タイヤをひっくり返す「タイヤフリップ(#1の記事を参照)」からの「フリップジャンプ」、「タイヤプレス」と続けて、身体の調子が良ければ「タイヤスロー」を行なうようにしています。フリップやプレスで全身を鍛え、フリップジャンプは心肺機能を高める狙いがあります。タイヤを返した後に5回ジャンプをするのですが、息が上がった状態からジャンプするのでかなりきついです。タイヤスローは実際の試合での投げ技の強化を狙っています。

 

★トレーニングメニューの写真がこちら

 

【フリップジャンプ】

タイヤをひっくり返した後、自らのヒザほど高さのあるタイヤに、飛び乗って降りるを5回繰り返す。

 

【タイヤプレス】

ショルダープレスの要領で、約350㎏のタイヤを胸まで引きつけ、全身を使って押し上げる。

 

【タイヤスロー】

100㎏のタイヤを担ぎ上げ、自身の後方へ投げとばす。

 

――タイヤでのトレーニングはどのくらいの頻度で行なっていますか?

稲村 ケガのリスクがあるので、身体が痛くないときに行なっています。試合の次の日は首や腰など、身体にダメージが溜まっているので避けますね。特にタイヤスローは、少しでも腰が痛ければ避けるようにしています。

――どこを重点的に強化しようという意識はありますか?

稲村 350㎏以上あるタイヤは全身を使わないと動かないので、特定の部位ではなく全身に効かせることが狙いです。持つ腕、挙げる脚、腹筋、背筋、体幹ととにかく全身を使いますね。タイヤはバーベルと比べてとにかく持ちにくいので、細かい筋肉まで使うのが良いです。大きい筋肉はもちろん、ダンベルやバーベルだけでは鍛えにくい、細かい筋肉まで鍛えられていると思います。

――全身を使うトレーニングなのですね。実際のプロレスの試合の中で、どのような動きに生きていますか?

稲村 プロレスの試合だと、僕は相撲のぶちかましのような「GEKITOTZ」(ゲキトツ)という技を使うのですが、その最初のパッという立ち上がりなどに生きています。相手を最後ぐっと押す動きにもぴったりですね。もう一つ、小さいタイヤを投げるトレーニングは、ベリー・トゥー・ベリー・スープレックスなどの反りの動きに役立っています。このタイヤトレーニングを始めてから、ぶっこ抜きの投げっぱなしジャーマンを試合で使うようになりました。

稲村選手のベリー・トゥー・ベリー・スープレックス©️CyberFight/プロレスリング・ノア

――タイヤトレーニングによって投げ技の威力が増しているのですね。

稲村 そうですね。やはりバーベルはもともと持ちやすい形になっているので、人間を持ち上げるのとは感覚が違うところがあります。その点、タイヤは持ちにくいようになっていて人間を相手にするときの良い練習になります。もともと投げるものではないものを投げているので、「これなら人間でも投げられるのでは?」という自信につながりました。

――トレーニングや筋トレなど、身体を大きくすることは好きだったのですか?

稲村 好きでしたね。プロレスを見始めたころから、大きい選手への憧れがありました。プロレス入門以前から柔道や相撲をやっていたので、トレーニングはしていましたが、ボディビルやストロングマンなどで大きな人を知るようになってから、どんどん憧れが強くなっていきました。ただ自分の中では、身体を大きくするだけではなくて、「強く大きく」したいなという思いがあったのです。それで、そのためにどうしたらいいかと考えたら、強くなるトレーニングをしていたら自然と大きくなるのではないかと。それがストロングマンの興味にもつながりました。トレーニングの成果で、体重はデビュー当初の約100㎏から120㎏まで増えましたし、身体も大きくなりました。

――かなりの効果があったのですね。その名の通り、まさに強い男のトレーニングですね。

稲村 ストロングマントレーニングは、自分でも驚くくらい効いていますね。ストロングマン界隈には強くて大きな人がたくさんいるので、僕はこの世界ではまだまだ赤ちゃんみたいなものです。有名な中嶋選手は「人間強度が高い」と表現していますが、本当にすごいんですよ。ですので、自分はまだまだだという気持ちで、「人間強度」を高められるように、謙虚に自分を高めるトレーニングをしていこうと思います。


強さへの飽くなき探求心を見せる稲村選手。まさに「ストロングマン」となるべく、トレーニングに打ち込む姿は圧巻だ。稲村選手の今後の活躍から、ますます目が離せない。


取材・文/森本雄大


稲村 愛輝(いなむら・よしき)©️CyberFight/プロレスリング・ノア
1992年11月18日生まれ、182㎝、120㎏。柔道と相撲で鍛えたのち、プロレスリング・ノアに入門。2018年9月2日、熊野準戦デビュー。ヘビー級の新人として早くから頭角を現し、19年11月にGHCタッグに初挑戦、20年にはN-1VICTORYにエントリーされるなど、大器として期待を集める。