近年は多くの識者がさまざまなメディアでトレーニング情報を発信し、「いったいどれを参考にすればいいんだ、何が正解なんだ」とトレーニーたちが頭を悩ませがちである。そのような中、個々の身体特性を引き出す「4スタンス理論」をベースに指導にあたっているのが、元パワーリフティング世界チャンピオン・三土手大介さんだ。第1回は、4スタンス理論とは何なのか。
重心の位置によって4タイプに分類
――廣戸聡一さんが提唱した4スタンス理論は、野球やゴルフなどのスポーツでは比較的浸透している理論だと思いますが、トレーニング業界ではまだという印象です。どういった理論なのか教えていただけますか。
三土手 そもそもの人間の骨格配列の設定を分類していくと、4つのタイプに分けることができるという理論です。トレーニングの世界で言えば、「これが基本です」というトレーニングのやり方やフォームが昔から提唱されていたりしますが、その通りにやってみても「なんかしっくりこない、うまく効かないな」という違和感があることがありますよね。それはタイプによって、本来の体の動かし方が少しずつ異なるから。フォームや体の動かし方違いが人それぞれにあるとみなさん感じてはいるものの、それがなぜなのかはかわらかないことが多い。そういったものをものわかりやすく分類して、方向づけしてくれるのが4スタンス理論です。
――4つのタイプは、どのように分類されるのでしょうか。
三土手 重心の位置で分類します。正しく立った状態で、土踏まずのつま先寄りに重心があるのがAタイプ、かかと寄りに重心があるのがBタイプ、同様に内側(人差し指の延長線上)重心なのが1タイプ、外側(薬指の延長線上)重心なのが2タイプです。これらの組み合わせによって「A1」「A2」「B1」「B2」の4つに分類します。それに加えて、体の連動のさせ方としてA1とB2はクロス(両肩と両股関節を結んだ四角形の角を、対角線上に結んで連動させる)、A2とB1はパラレル(両肩と両股関節を結んだ四角形の左右同じ側が連動する)という特徴を持っています。
――その分類は、生まれつき決まっているものですか。トレーニングに限った話ではないですが、成長するにつれて自分の動作やフォームが変わったという人もいると思います。
三土手 基本的に変わるものではありません。トレーニングにおいては、「筋肉が強くなった(衰えた)ことによってフォームや体の使い方が変わった」と言う人は確かにいます。ただ、先ほど言った“設定”というのは関節や体を動かす順番によるものなので、それが筋力の大小によって変わることはありません。もし変わったのであれば、何かによって動きが作り込まれてしまった状態でしょう。その人の本来の自然な動作が、作り込みで上書きされた、あるいは上書きされていたものが解除されて、本来の形に戻ったことで「変わった」と思う人かもいるかもしれません。
――どのタイプが優れている、劣っている、ということもありませんか。
三土手 ありません。廣戸先生の著書に『キミは松井か、イチローか。』というものがありますが、パワーヒッターだった松井秀喜さんと、ヒットを量産したイチローさんのバッティングフォームを見て、どんな素人でも二人の特徴が違うことを理解できると思います。でも、「どちらのフォームが優れているか」という議論にはなりませんよね。あくまで4スタンス理論は、4つにタイプに分類し、タイプ毎の特徴に従って体を動かすことで最大限の力を発揮できるという理論です。