「天心選手がいなかったら僕はこの歳まで格闘技をやれてない」
──あらためて天心選手への想いを聞かせていただけますか?
「本当に天心選手がいたから、苦しかった部分もたくさんあったんですけど、天心選手がいなかったら僕はこの歳まで格闘技をやれてないと思うし、どっかで満足するか燃え尽きるかして、モチベーションを保つこともできなかったと思うし、約10年負けないで勝ち続けてこれたのも天心選手っていう存在がいたから、モチベーショを落とさずに強さを維持できたと思うんで、言葉では表せないですけど、同じ時代にこの闘いの世界の中にいてくれて、本当に感謝しかないですね」
──今回の決断にあたり、どなたかに相談して背中を押してもらったみたいなことはありますか?
「ケガの部分に関しては(渡辺)雅和さん(KREST代表)とは話していて、今回だけじゃなくて2~3年前ぐらいからですかね。腰だったりヒザだったり、練習でも使えなくなった時期もあったし、今回の試合前に雅和さんとか一緒に練習している人たちだったり病院の先生だったり、いろんな人と相談して、このままだと生活に支障が出ちゃうようなケガでもあったんで、決心したのは試合の2週間ぐらい前に1回歩けないぐらいの状態になった時があって、右の蹴りが実際に蹴られない状態で最後の2週間ぐらいを過ごして。
その時にちょっと治さないと自分のやりたい闘いもできなくなるし、あとは体調に関しても生活に支障が出ちゃうような状態になった時に、格闘家としてだけじゃなくて、人としてちゃんとしたっていうか普通の生活が送れなくなるのはよくないなとは思ったし、自分のためだけじゃなくて周りにいる人たちにも迷惑かけちゃうことにもなるし。夜中に病院に運ばれたこともあって、自分だけの話じゃないなと思った時に決心しましたね」
──満員の東京ドームで、オープニングで『エンドルフィンマシン』が流れて、ゴンドラで2人が入ってきて、かつてのK-1の世界を武尊選手と天心選手の2人がつくり上げたんだなっていう感慨もあったんですけども、武尊選手はそのへんは感じられたでしょうか?
「僕がちっちゃい頃から大好きな格闘技の舞台っていうのを、なんかその舞台で試合できることはすごくうれしいことだったし、あれは1つの文化だと思っていて、それをまた今の時代にこの格闘技の素晴らしい部分をたくさんの人に見てもらえたっていうのはすごくうれしかったです」
──天心選手に感謝をしているとおっしゃっていましたけど、機会があれば2人で話をしたいという想いはありますか?
「いや、ないですね、まだ。それはたぶんお互いに引退してからなんじゃないかなと。天心選手はこれからボクシングで活躍していくと思うし、同じ格闘技界にいる間は仲よくはできないかなと思います」
──当日の試合後に天心選手がリング上で武尊選手と話した内容について、今後というか武尊選手の考えも聞いたと。ここでは自分は言わないっておっしゃったんですけど、そこで告げられた考えとその後の変化というのはあったんでしょうか?
「根本的な部分では変わってなくて、変わってはないんですけど、あの時に伝えたことっていうのは天心選手への想いの部分だったんで、そこの部分については変わってはないです」
──ずっと負けずに闘ってきて、試合前にお話を伺った時に、この試合に負けるっていうことは自分の格闘技人生を否定することになるとおっしゃっていたんですが、実際に負けた後、敗北についての考え方は変わりましたか?
「今回の試合で一番学んだ部分はそこの部分で、毎日負けることが怖くて、この10年間、ずっと恐怖と闘ってたなと思っていて、だから格闘技大好きだし、試合も大好きなんで、試合の時は笑って楽しんでるんですけど、それ以外の時間って苦しさと恐怖しかなかったなと思って。それって心から格闘技を楽しめてなかったと思うし、苦しさとか恐怖に支配されてた自分っていうのが、まあそれがあったから強くなれた部分もあるから無駄ではなかったと思うんですけど。
今回こうやって約10年ぶりに負けて、その時に知れたことっていうのは本当に僕の中ですごい大切なものに気づけたんですよ。もちろん負けるのはくやしいし、負けた自分は許せない。だけど自分の歪んでた部分だったり負けに対してのネガティブな気持ちっていうのは、ちょっと変わったかなって思いました。
なんで、なんかこれで1つ強くなれたんじゃないかなって。負けるっていう自分の中での価値観がいい意味で変わったんで、恐怖がなくなったぶん、もっと思いっきり闘えるんじゃないかなと思うし、多分これから僕はもっと強くなれるなって確信しました」
──先程、那須川天心さんへリベンジしたい気持ちがとおっしゃっていたが、天心さんとの闘いは今回の『THE MATCH』で終わったのか? それとも彼はボクシングに行きますが、何かの形で続くのか? そして武尊さんがおっしゃるリベンジしたいっていうのは天心さんへのリベンジなのか、自分自身へのリベンジなのか教えてください。
「この試合やる時にこの試合は1度だけで2回やる必要はないと僕は言っていて、だからこそ意味があると思うし。悔しいから試合の日に家に帰った時にはもうその試合を見ながら対策を考えて、何がダメで何が弱かったのか何なのかっていうのをずっと朝まで考えていました。
天心選手はボクシングに行って、階級もまたこっからもっと変わっていくと思うし、100%僕も気持ちが固まっているわけではないので断言はしたくないですけど、天心選手との闘いだけじゃなくて、直接的な闘いだけじゃない闘いもあると思うんで。そういう意味でも新しい目標をこれから1つ思っていることがあって、そういう意味の闘いは一生続いてくんじゃないかと思っています」