【渡辺華奈のデートするならジムがいい 第53回】約3週間の海外練習を振り返って




8月1日から約3週間半、再びハワイの「UNITED MMA HAWAII」へと練習に行きました。連載第49回で書いたように、ここはONE ChampionshipのONE世界女子アトム級王者のアンジェラ・リー選手が所属しているジムで、次の試合に向けての練習パートナーとして呼んでいただいたのです。

 

前回は体調を崩してしまったり、タイミングが悪かったりで、アンジェラ選手とは一日しか練習ができませんでした。しかし、今回は試合に向けての練習パートナーということで、試合の対策をしたり、打ち込み練習をしたり、スパーリングをしたりと、むしろアンジェラ選手としか練習をしていません。

アンジェラ・リー選手と

 

練習は朝に2時間半くらい選手練習をして、夜は一般の会員さんのクラスの練習に参加します。ここまでは前回と同じですが、今回はこれにプラスして、アンジェラ選手、弟のクリスチャン選手ともに、試合が近いということもあって、特別練習の時間も用意されていました。クリスチャン選手は16時から、アンジェラ選手は17時から、というように時間をきっちり分けて、コーチであるお父さんが付きっ切りで指導します。この特別練習の時間は、コーチとアンジェラ選手、そして自分の3人だけでの練習でした。

 

次の試合の相手を想定した練習では、「相手がこういう動きをしてくるから、こうやって動いてほしい」というリクエストを受けます。次のアンジェラ選手の対戦相手と、自分は全然ファイトスタイルが違うので、そこまで的確なコピーはできません。ただ、できる限りのことはやりました。

 

普段の自分と違う動きをするのも大変なのですが、それ以上に大変だったのは、言葉がわからないことです。これまでも海外に一人で行くことはありましたが、日本語を話せる人がまったくいない環境は初めてのことでした。練習中はすべて英語なので、動作を目で見て理解するしかなく、いろいろな部分に気を使いすぎて、とにかく疲れました。

練習はすべて英語でした

 

生活の面でもこれまでの遠征とは違いました。今回は滞在期間が長いこともあって、宿泊はホテルではありません。アンジェラ選手のお父さんが所有する3LDKアパートの部屋を借りて生活していました。基本的に食事は近所のスーパーで買い物をして自炊です。肉、野菜、パスタ…と、ほぼ毎日同じようなものばかり食べていて、滞在中に少し痩せてしまいました。

 

連日ONEのチャンピオンと練習したからといって、短期間で劇的に強くなることはないと思います。そうした中でも、アンジェラ選手たちの強さの理由みたいなものはなんとなく感じることができました。

 

彼らはすごく裕福な家庭なので、物すごくハングリー精神があるというわけではありません。また、補強運動を一緒にしていても、フィジカル的に恵まれているわけでもなく、運動神経が抜群にいいというわけでもありません。それでも4姉弟全員が強いのは、コーチであるお父さんが物すごい熱量をかけていることが、強さの秘密なのかなと思いました。

 

小さい頃から英才教育で、MMAを教えてきているので、格闘技が生活の一部になっていて、体にその動きが染みついている感じがします。いろいろと技のレパートリーも多く、考えなくても動けるという強さも感じました。MMAが競技化されて歴史を重ねてきたことで、今は子どもの頃からMMAに親しんできている選手がいることを実感できました。

 

スポーツは小さい頃からやっていたほうが有利になる競技もあり、4姉弟はそれで強くなっていると思いますが、MMAは一概に子どもの頃からやっているほうがいいとは言えないと思います。一つの競技を極めた選手がMMAに転身して成功している例はたくさんありますし、自分も柔道をやってきて転身していますが、MMAだけをやってきた選手に負けるとは思っていません。

 

3週間半にわたる遠征でMMA一家と一緒の時間を過ごしたことで、いろいろと考えることができたことも収穫の一つだと思います。大事なのはこれからですね。

 

 

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渡辺華奈(わたなべ・かな)
1988年8月21日、東京都出身。7歳から柔道を始め、高校ではインターハイ2位、アジアジュニア優勝などの実績を残し、東海大進学後、1年時に全日本ジュニア優勝を飾る。卒業後、JR東日本へ入社し、オリンピックを目指して競技を続けた。2017年に同社を退社し、格闘家に転身。同年12月3日にデビューを勝利で飾ると29日にはRIZIN初参戦で実力者杉山しずかに勝利。2021年よりアメリカ格闘技団体「ベラトール」に参戦している。所属はFIGHTER’S FLOW