ウクライナの少年がわんぱく相撲全国大会でベスト16入り 躍進を支えた「助け合いの精神」




雲ひとつない快晴の中、大相撲の聖地・両国国技館にて『第38回わんぱく相撲全国大会』が行なわれた(7月29日)。元横綱である貴乃花光司さん(前身のわんぱく相撲東京場所で優勝)や、元大関の豪栄道豪太郎さんなど有名力士を輩出してきた本大会。今大会は新たな試みとして戦禍にあるウクライナから2名の代表選手が招へいされた。

ウクライナ代表として出場するのは11歳のミコラ・ユパトキン君と12歳のマカル・ハラドキフ君のふたりだ。彼らは3月にウクライナのルーツィクで開催された『わんぱく相撲大会ウクライナ大会』の11歳と12歳の部門をそれぞれ優勝し、今回の出場権を手に入れた。

大会に出場したのは全国185の地区予選を勝ち進んだ106チーム(モンゴル・ウクライナの2チーム含む)に所属するわんぱく力士。4年生の部、5年生の部、6年生の部の3つでそれぞれ優勝が争われた。

他チームの力士に比べ、ミコラ君、マカル君は体格面では劣るも、巧みな技術でウクライナ予選を勝ち上がってきたポテンシャルを活かし、どこまで勝ち上がるのかに注目が集まった。

まず登場したのは5年生の部に出場したミコラ君。緊張の面持ちで土俵入りすると、主審の「ハッケヨイ」というかけ声に合わせ、勢いよく相手を目掛けて飛び出す。相手の引き落としにより無念の敗北となったものの、「結果は残念でしたが、今後も相撲を続けていきたいです」と前向きな様子だった。

一方、6年生の部に出場したマカル君は快進撃を見せた。一回戦では、体格の大きな相手の圧力をうまくかわし「腕(かいな)ひねり」で勝利。続く2回戦は「足取り」、3回戦は「すくい投げ」など、レスリング歴7年で鍛えた体の柔らかさを活かし、ベスト16入りをはたした。

続く4回戦では体格差で押され、「寄り切り」で惜しくも敗北となったが、ノーシードかつアウェーという環境ながらベスト16まで勝ち上がったミコラ君には、会場から惜しみない拍手が送られた。

一回戦で飛び出した「腕(かいな)ひねり」
自分より大きい相手は「ちょっと怖かった」というマカル君。それでも、相撲とレスリングで鍛えた技術でベスト16入りをはたした

試合後マカル君に快進撃の要因を聞くと「当日お会いした秀ノ山親方に教えていただいた、『琴バウワー』を実践したら自然とパワーが出た」と、元大関・琴奨菊のルーティンが躍進に繋がったと笑顔で答えてくれた。

そして、今回の躍進はミコラ君の存在も大きかったようだ。彼らの来日をサポートした一般社団法人ウスミシュカの理事・中條秀人さんによると「マカル君が勝ち上がるたびに、ミコル君が彼のもとに駆け寄っていたんです。彼なりに試合に向けてのアドバイスや励ましの言葉を送っていたので、それがマカル君の活躍に繋がったのだと思います」と振り返った。

続けて中條さんは「彼らの活躍を通して、ウクライナの人々に希望を持っていただき、日本でもウクライナの現状を知ってもらうきっかけになればと思います。そして何より、ミコラ君がマカル君にしたような『助け合いの精神』が人々に伝わってほしいですね」と語った。

戦禍にある故郷の思いを一心に背負い迎えた本大会。目標である優勝には届かなかったが、大会テーマのキーワードでもある「輝く未来」につながる、かけがえのない経験をウクライナに持ち帰ったのではないだろうか。

文・写真/中野皓太